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客観的に見れば王子様

     *   *   *  タンタンタン、とリズムよく階段を下りる。  今日はどんな日なのか昼休み以降の授業もすべて自習という珍しいことが起きたのだ。だから頭を使うような体力も減らず、出されたプリント時間以外はほとんど平三と木下の三人で喋りっぱなしだった。  おかげで顎が痛くなってるような気もするが、このぐらいの痛みや少しの疲れなんて普段の授業と比べれば答えなんてわかっているだろう。  さて、今日の菓子はなにを作るか。  気持ち悪いほど機嫌が良い俺。  平三は職員室に呼ばれていて、木下は漫画の新刊を買占めに行くと言い、他の誰よりも先に教室を出て行ってしまったため、今は俺一人。  喋ってて思ったけど、女子はあれ以上に喋るのだろうか。  いつまで続くかわからない話題、かと思えば話してる内容がさっきの内容と全く違っていたりして──と、いつかのバラエティー番組内で行われた実話を元に再現ドラマでやっていたのを思い出す。  結構、頭使うというか……めんどくさいというか、あ。  シンプルにドーナツでも作ろう。  でもこの間、パンケーキを作ったせいで粉がなかったな。ついでに牛乳も買っとこう。俺も王司も飲む方ではないから500mlでいいか。  二学年の教室は三階と四階。1組から4組までが三階で5組から9組は四階にある。そんな三階から一階までぐるぐると下りて行けばたまにすれ違う生徒。  これから帰るものや部活に行くもの、放課後なのにまだ校内にてなにかをやっている可哀想な人達。俺自身、遅くに教室から出たせいで本当に数人としか会わなかったけど。  最後の一段を足につけば左に曲がって昇降口に向かうだけ。  有り余る体力に鼻歌だって余裕だ、と誰に向かって強気な態度をしてるのかわからなくなるぐらい、やっぱり俺は機嫌が良いのだ。そのせいだろうか、 「――いだっ……」  誰かにぶつかってしまった。 「あぁ、悪い、前を見て……って、智志君!」 「……」  まぁ……慣れてない他の奴等よりは、こいつでよかったと思うが……。  帰る気満々な俺に対してまだ鞄すら持っていない王司。しかも俺と逆方向から来たって事はこの階段を上ろうとしたんだろう。  そんな憶測をするためにジッと王司を見ていたのだが、王司はなにかを勘違いしてきやがった。 「あ、ごめん、ちょっと……智志君と校内で喋れる機会があったから、嬉しくてつい……!ごめんね?今後はちゃんと言いつけ守るから、智志くん」 「あ……いや、」  そういうつもりで黙っていたわけじゃないんだが……。  基本的に目立ってしまう王司と目立つのが苦手な俺。目立つのが苦手なのはほとんどの人が思う事だろうが、平三といた時はもっと苦手だった。  あんなに人の視線を浴びながら生きた事がないからな。平三であんだけ視線を集めるなら王司なんてその倍……数倍目立つだろう?  だから学校内ではあまり喋りかけるな、と話した事がある。だが、そんな極端な考えをしていたとは思わなかった――つーか、言いつけって……。  幸い、今の時間帯は人がいない。だから喋っていても俺の苦手なものを感じることなくストレスも溜まらない。さらに俺は機嫌が良い。  カッコいい姿を見せてくれたギャップに免じて買い物に誘ってみるのも悪くないだろう。  なんて、上から目線の心情を周りに聞かれたらフルボッコされるな。 「もう用事ないなら一緒に買い物でも行くか?」  口を開かなかった俺であたふたしながらも、どこか暗い表情を浮かべていた王司はこの一言でいっきに明るくなって頷く。  切り替わりのはやさがおかしくて吹き出し笑いながら待ち合わせ場所を伝えるとすぐにいなくなった。7組のあいつが四階まで全力で上るなんて、息切れとかしないのか?  しないか、運動神経抜群とか言う前に奇跡的な男でもあるから。  あー、おかしい。  傍観者気分と当事者気分だと全く違うからおかしい。  お前は本当に外見だけ、王子様だよ。  

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