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犬でも投げたボールを持ってくる

  「智志と王司って結局どんな関係になんだ?」 「はっ?関係?」  俺が作ったトリュフを勝手に食いながら言った平三。  別にバレンタインとかなにかイベントがあるから作ったわけじゃない。そこに作れそうな材料があったから気晴らしにトリュフを作って学校に持ってきただけだ。  それを平三に見付かって取られて普通に食われて……俺はなにも言わず、強いて言えば心の中で『こいつどんだけ俺の菓子を食うんだ』と思ったぐらいで、無視していた。  漫画の読み過ぎと言う名の寝不足で机に突っ伏す木下を誰も起こそうとしないのは、みんなが勘違いしてるからだ。  勉強で疲れてんだな、って。  そうじゃねぇよ、そんなんだから“王子様”の事も見抜けねぇんだよ。 「俺は平三の言ってる意味がわかんないな……」 「んー、だってこの痕って会長のデコピンだろ?」 「よくわかったな」  前髪でなんとなく隠していたつもりのデコピン痕も実は隠れ切れてなかったみたいで平三に指を差されながら言われた回答。  パシッと片手で額を隠す。 「だが、これとあいつの関係はなにもないだろうよ」 「そうでもないかもしれないぞー?詳しい事は知らないが、俺が言えるのはひとつ」  そう言って俺に差していた指を天井に向ける形で続けた小さな声。 ――王司 雅也は会長より頭が良い――という一言。  王司の名前を口にした時、小声だったのは俺を思ってのことだろう。  学校では全く話さない俺と王司に平三は察しよく、それでいて俺の理解者でもある。でもまあ、今なら普通に王司の話をしても大丈夫だと思うけどな。 「この間のテストは50位にも入れてなかったけど?」 「それは全く勉強をしてなかったからだろ。というか今までも勉強は授業程度でその時間以外、教科書ノートなんて開かず過ごしてたんだから。それでいて絶対に10位以内をキープしてたんだぞ?」  苦笑いをする平三は最後に『木下より良い頭だよ、あれは』と付け足して腕を組み始めた。机に顔を伏せるようにして寝ている木下の背中を見ながら王司と重ねてみる。  とはいえ、あいつのイメージというものがあるからすぐに想像出来なくて止めたけど、木下より良い頭って……。じゃあやっぱり木下は陰で努力するタイプなのか?  だって王司はほとんど勉強しなくて10位以内に入ってたんだろ?……いや、どっちもどっちじゃね? 「つーか、木下基準で考えてたらピンクか桃色の差しかねーよ」 「あはは、確かに。でもさ、智志は興味なくて知らなかったかもしれないけど一年の時、王司は1位を取ってたんだ」 ――その総合点数は、899点。 「……」  平三の言葉に俺は自分で作ってきたトリュフを一粒、握り潰してしまった。  899点ってなんだ……そんなの見たら誰に送るわけでもないのに写真撮るぞ……。  その僅かな1点だって教師のミスかもしれない、と思わせるような微妙奇数点に俺はなにも反応出来ず固まっていた。 「だから二人が生徒会長、副会長候補になった時、誰しもが王司 雅也が生徒会長だろうって思ってたんだけどな。それを断って今の会長を強く推したんだよ。で、それからのテスト順位は落ちる一方。まぁ10位以内には入ってるから嫌味にしか見えないんだけど」  王司 雅也という人間は、やはりあまりにも出来過ぎていた。――変態でも。  語る平三はほとんどが会長様から聞いた話らしいから、間違いじゃない。  それが真実で王司の今回のテストは全く勉強していないどころか、もしかしたら空白もあってその順位になったのかもしれない、って。 「ま、まぁ……このデコピンはこの間、会長様に“雅也のスイッチを押してくれ”とか言われてやられたものだけど、それってつまりはやる気スイッチって事か……」 「原因は智志でこうなった、とか言われたなら、そうかもしれないな」  平三すげぇ。  まさにその言葉言われたわ。  そうか……俺はあいつのやる気スイッチを押さなきゃいけねぇのか……。どこにあんだよ、そんなの……。  あいつのやる気スイッチ探す前に誰か俺の、王司の気を立たせるスイッチを探すやる気スイッチを押してくれよ! 「会長が突っ込んでいった話だ。王司と智志はどんな関係なのかな、って思ってさ」  そこでようやく冒頭に戻ったわけだが……なにもない、と思うぞ? 「王司は智志の事が好きで、いろいろやっているなら……」 「……」 「智志もそれに応えて気力のボールを投げたらいい。で、その気力という名のボールを王司に持ってこさせてさ、なにかしらの気持ちを上がらせてみれば?」  そして最後のトリュフを食う平三。  王司の気持ち、なぁ……。  

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