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言い忘れてたな、あいつは――、

  「あー、会長様テスト順位1位でしたね」  それはまるで、天気いいですね、みたいな振り。これがキッカケで話題も探しやすくなると、コミュ障解決本に書いてあった気がする。 「あぁ、そうだな。当たり前の事だ」 「ですねー!……は?」 「俺は毎回トップ。この学校でいえば中学の時から、な」  終わった会長様は変わらずの表情で振り返り、俺と同じく手を洗うために蛇口をひねった。  この人は会話の糸口というものを知らないのか?  ない頭で必死に話題提供をしたっていうのにバッサリと終わらせやがって。この後、続くとしても俺の『おー、すごいっスね』……で終了だろ!?  それで沈黙が来ちゃうんだろ!?  ふざけんな! 続けさせろ! 「というより、」  なんて内心暴れていたら会長様が話しかけてきた。意外なものを見るような表情で会話を待つ俺。いや、俺が望んでいるような流れだから喜ぶべきなのか? 「生徒会連中はみんな50位以内だからな」  そう言って水を止める会長様。  でも、ちょっと待て。別に俺はあの1位から50位の名前を全部暗記してるわけじゃない。そうでもないはずだが、ここで一つハテナマークが頭の上にいくつも出てきたのだ。  だって副会長であるらしい王司 雅也の名前が50位以内に入ってなかったから。  なぜ、王司の名前がなかったのか、とわかったのか?  そんなの知るか。  ただ、朝に学校へ行けば今日はテストの順位だっけ?とか思ってて。  三階の廊下に貼り出されてる紙を横目に“あそこに俺の名前はない”とわかっていたから素直に教室に入って自分の席に向かったんだ。  そしたら木下が前の席で漫画を読みながら座ってて、挨拶がてら『そこはお前の席じゃないだろ』と話しかけた。  いつもと変わらずの木下も漫画から目を離さず適当な返事でかわされるっていう、いつもと同じような始まり方だった。  木下は50位以内に入ってるとわかっていて見に行かないだけ。  その自信を俺にもわけてくれよ、なんて思いながら鞄から教科書を机に入れる。  そこで平三もやってきてこう言ったんだ。 『木下が勝手に妄想していた男達がキャッキャッして順位表見てるぞ』――と。  そこで火がついたらしい木下は漫画を叩くように閉じて勢いよく立ち上がれば俺と、来たばかりの平三の腕を掴み貼り出されてる紙の前へ向かったのだ。  平三がキャッキャッしてるの“キャッキャッ”だけを聞けば男にしては可愛らしい二人組が50位以内に入ってて喜んでるのだろうと勝手に予想してみるものの、全く違かった。  あれは……角度を変えれば可愛いとも言え、るような……そうでないような……というただのイケメンだったのだ。 「中沢、あれだあれ、あいつに抱き着いてみろよ。案外スルッとおとなしくなるかもしれないぞ?」 「おいそれ大丈夫なのか?万が一襲われたらどうすんだよ……」 「松村も、お前の心配はどこに向かってんだよ」 「チッ……」  舌打ちをする俺の心は非常に荒れている。  イケメンという胸クソ悪いものを見せやがって。背もそれなりにある二人をどう見て木下は“可愛い”と思えるんだ?  ちょっとした悪い気分に視線を変えて、この際トップを見てやろう、と思い、会長様を発見。  なんとなく下に辿れば木下の名前もあって、なんか知ってるような名前もあって。  もちろん知らない名前もあったが……その場ではピンッと来なかったものの、文字だけでも輝きが増す王司 雅也の名前はなかった。 「うちの生徒会は緩いが本気を出せばあんなもん上位を占めるのも余裕だろう」  思い出す朝からのやり取りを会長様の声で戻ってきた意識。  まだ時間はあるし、出る気もないのか壁に背を付ける会長様へ俺は話しかける。 「会長様、あいつはいなかったけど?」 「あいつ?」  俺の問いに心当たりがないのか、眉間にシワを寄せては首を傾げる。  つられて俺も眉間にシワを少しだけ寄せて首を傾げながら『王司 雅也だよ』と伝えると会長様は目をパチクリとわかりやすい瞬きをして、顔を歪めた。  その反応に俺はさらに眉間のシワが深くなる。 「言い忘れてたな、あいつは……」 ――気を抜かし過ぎてるだけだ。  そう言って、会長様は俺に強烈なデコピンをしてきた。  

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