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冷静な気持ち

     *   *   * 「え、で、なに?また俺んとこ?」 「いや、俺あいつの処理するの難しいんだけど……」 「智志は大丈夫か?こんな時間に来ちゃってさ」  それはお前も同じだろ、なんてツッコみはしない。  王司の健気に見えた気持ちを勘違いして、再び後悔し始めた俺はあの部屋に居づらくなって、一人部屋を使ってる木下の部屋にやって来てしまった。  するとそこには木下だけでなく、平三までもいたのだが。 「ちなみに、俺はちゃんと会長から許可もらってるから」 「職権乱用だよなー。俺の気持ちも考えずに来ちゃうあたり、恋人という名の職権乱用」 「……やっぱ俺ってば顔に出易いか?」  平三がここにいる理由は知らない。聞く気もないが、その前に話すタイミングもなくてスルー展開だ。  常に漫画とともにいる木下。ソファーで横になりながら欠伸をする平三。  あぁ……なんかすげぇ平和だ……。  時間は23時過ぎ。  もちろん明日も学校だがそんなの気にしない。  俺、ちょっと前まで……はぁ。 「なんだよ智志、また襲われたか?」 「AHAHAHA!鍵壊れてるもんな!」  本気で心配してくる平三にニヤついた笑みを浮かべる木下。こういう時だけお気に入りの漫画を閉じるのやめねぇか?  だが……話すべきだろうか。この二人にドン引き、というのは……ない、かもしれないが……。いや、わからないぞ?  だって今回は俺まで合意、としてヤッてしまった行為だ。嫌々言って踏んだり蹴ったり舐められたりしたわけじゃない。  手錠までは俺のターンでも、あとの事は全部王司のターンだった。全部、王司の……だけど途中から俺も違かったろ……? 「マジでどうしようか……」  床に座っていた俺はなだれ込むように倒れて顔を隠す。  お前等がここで喋っていた間、俺は、俺は、俺は……! 「まぁ、話せよ、中沢」  混乱と焦りでうじうじしていたら、木下が真面目な顔で肩にポン、と手を置いてきた。そんな木下が初めてで、平三を見る。 「王司の事、知ってるし?話せば楽になるって」  こいつまでいい顔しやがって……。  そうだよな……俺自身が限界で耐えられなくて、だから二人に打ち明けたんだもんな……。  今までに感じた事のない優しさに俺は倒れていた体を起こしながら表情を誤魔化す。さすがにこんな情けない顔を晒すわけにはいかない。 「実は、ついさっきの出来事なんだけど――……」  いつものように、俺は淡々と話し始めた。――しかし、人の優しさなんてシャボン玉のように脆く消えるものだと、知った。 「……」 「……」  この二人が黙るからだ!  平三はなに苦笑い浮かべてんだよ!  木下なんて興味が薄れてきたのかまた漫画を読みだしてるしさ!  ほんと、なんなんだ! 「俺か?俺が悪いのか?俺が悪くてこの空気なのか!?」 「お、落ち着け、智志……」  テーブルを叩きながら暴れ出す俺。今までの鬱憤、というわけでもないが、それに似たなにかが破裂した。  別に打ち明けたからって平三にも木下にもなにかしてもらうつもりはない。そもそも、なにも出来ないと俺はわかっている。  王司のキャラが強烈過ぎて、なにも出来ないんだ。でも、ただ、少しは聞いてくれて、少しはリアクションをしてくれて、少しは――……なんて俺から求めまくってどうすんだよ……。  ダメだ、俺もう本当にダメだ……まとめが効かない。  父さんと母さんが空の上から見ているかもしれないのに、俺はあんなことを……。 「つーか、王司ってタチじゃなかったのか?なにイラマチオされてんだよ。いや、あいつからねだったのであればイラマじゃないか……ただのフェラ?どっちにしろ王司がネコ立場に見えてしょうがねぇよ!」  読んでいた漫画を叩きつけるようにテーブルへ置いた木下。 「き、木下も落ち着け……下品な言葉だぞー……」  仲裁する平三。  思えばこの中で一番大人かもしれない。……それはきっと、なにもかもが済んでるから、そういった意味での余裕なのだろう。 「はぁ……だいたい中沢はサディストなわけ?どうする?これから突っ込めるぞ?いろんなシチュエーションあるけど!?」 「……っ」 「木下!お前……!」  ぐあ、と押し付けてくる大量の漫画本。  表紙からしてソレらしきものや、普通に男同士が立ってるだけのものを押し付けてくる。  

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