1 / 5

 叶わぬ恋をした。  物心ついた時から、いつも一緒にいた人だった。  向けられる笑みに、頭を撫でる大きな手に、どれほど心を揺さぶられたか、分からない。  少しでも憂い顔をすれば、何かあったのかと、心を配ってくれる彼に。  粗野な物言いながらも話を聞いてくれる、彼の存在に、気付けば恋をしていた。  だがそんな淡い春は、十八の歳になって見事に霧散する。  ──彼には既に、想い人がいたのだ。

ともだちにシェアしよう!