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【2】SIDE蓮見(2)-4

 今回、変更案として希望しているペニンシュラ型は、一方の壁、安田邸の場合なら北の壁面から垂直方向に部屋に付き出す形でキッチンを配置するスタイルだ。  名前が表す通り半島のような形状をしている。部屋の中央に向かって縦長にキッチン本体が横たわるので、現在施工中のものとはちょうど90度方向が変わることになる。  ペニンシュラタイプはカタログやショールームで見るとスタイリッシュな印象を受けるが、キッチンが主役になるので、部屋の用途や目的をよく考えて選ぶ必要があった。  広さも必要だ。  垂直方向にキッチンを配置すると、一般的な広さのLDKではテーブルセット以外の家具を置くのが難しくなる。  安田邸の場合もそうだった。  全体で十六帖あるLDKは、対面キッチンなら十分な広さだ。しかし、ペニンシュラ型にするとなると、ソファセットの置き場所がなくなる。ソファを単体で置くのがやっとだろう。  部屋全体が、LDKというより広めのダイニングキッチンのようになってしまう。  図面の上に鉛筆書きでキッチンの大きさを示し、実際にどのくらいの位置までスペースを取るのかを現場の土間コンクリートの上に立って示した。  わかりやすいようにコーンを立て、コンパネを使ってテーブルの位置をイメージしてもらう。 「え、こんなところまで……?」  二人が困惑した表情でコンパネを見下ろす。 「元の図面だと、テーブルの位置はここですね」  十二ミリ厚の合板を、北に数歩進んだ場所に置き換えてみせる。  南側のスペースが広くなるのがわかった。  二人が顔を見合わせる。 「どうする……?」  コンクリートから顔を出している塩ビの丸い管を指差して、真由が聞いた。 「あの灰色の筒みたいのはなんですか?」 「ああ。給排水用の配管です」  キッチンはただの家具ではない。あらかじめ取水と排水の工事をしておく必要がある。 「キッチンの向きが変わると、こちらもやり直すことになります。土間コンを(はつ)って打ち直すので、どうしても日数をいただくことになりますね」 「どまこん? はつる?」 「土を覆うコンクリートの部分を土間コンクリートと言って、これを敷くことで湿気が家に入り込んだり、土台を傷めたりするのを防いでくれるんです。斫るというのは削って取り除くことで、コンクリートを打つというのは、流し込んでならすという感じの意味かな……。配管の位置が変わると、それを全部やり直すことになります」

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