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恐る恐る背後を見れば、どういう訳かタオルを手にした玲がそこに立っている。 「お待たせ。これ、用意してもらったんだけど、熱かったら言って」 「え? ……あっ!」 近付いてくる彼の気配にまるで気付けなかったから、驚きと動揺のあまり返す言葉も見つからなかった。 そんな遥人に構うことなくベッドの上へ乗りあげた彼は、湯気の立っている白いタオルを遥人の顔へと向けてくる。 「じっとしてて」 穏やかな声に含まれた毒を知っているから抗えず、タオルで顔を拭かれている間、ただガタガタと震えていた。 少しすると、顔を拭き終えたタオルが首へと降りてきて、そのまま胸へと達した辺りで遥人が体を引こうとすると、「動くなって言ったよね」と、釘を刺すように言われてしまう。 「ここ16階だから、外に出たいなら屋上に行くか、玄関からにしておいたほうがいい」 「……あの、ここは一体……」 「今日から遥人が住む部屋だよ。学校からも近いし、セキュリティもちゃんとしてる」 ようやく得られた答えだが、決定事項のように言われて遥人はさらに混乱した。 なにせ、狭い賃貸住宅とはいえ自分には住む場所がある。

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