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「……はやく」  上がってくるエレベーターの階数表示を見上げながらも、誰かが乗っているかもしれない可能性は考えない。 「……っ」  だから、開いたドアの向こう側に、見知った顔が現れた時、動揺のあまり呼吸が止まってそのまま遥人は尻餅をついた。 「驚いたな。自分で着替えて出てきたんだ」  降ってきた間延びした声に……奥歯がガチガチと鳴り始めるけど、あまりの恐怖に答えることも、顔を上げることもできやしない。 「そんなに怖がるなよ……って言ってもムリか。ってか、ソノ、もしかして……」 「……めんなさい、ごめんなさい」 「漏らしちゃった?」  言われた意味を理解する前に、股間がジワリと熱を持ち、遥人はそこで初めて自分が失禁したことを知る。堀田の言葉に身を小さくして何度も謝罪を繰り返せば、「やりすぎだ」と低い声音が遥人の耳へと入ってきた。 「俺はまだ何もしてない。ソノが勝手に漏らしただけだ」 「そうさせたのはお前らだろう? アイツに……頭を冷やせって伝えておけ」 「了解。でも、知ってたのにこんなになるまで放っておいた大雅も悪いと思うけど」  大雅という名に遥人の体はピクリと反応するけれど、二人が話している内容の意味はまるで分からない。 「とにかく、コイツは連れて行く」 「いいよ。そのつもりで連れてきたんだし、このままじゃソノが死ぬ」  ――いったい……なにを?  虚ろに考えはじめたところで誰かの手が肩に触れ、思わず悲鳴を上げそうになるが、「落ち着け」の声が聞こえて懸命に声を飲み込んだ。

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