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第4話 夜這 ★

   何日振りだろうか。  香彩(かさい)竜紅人(りゅこうと)と共に、夕餉(ゆうげ)を取ることになった。  誘いをかけてきたのは竜紅人の方だ。  それだけで心が浮付き、喜びを感じてしまう自分に嫌気が差す。  忘れると、この心は捨てると。  決めたばかりだというのに。  竜紅人と話をしながらの食事は、やはり楽しいものだった。  話が盛り上がり、酒も入ったところで、竜紅人が用を足しに席を立つ。  隙を見て香彩は、先程処方されたばかりの眠り薬を二包、竜紅人の酒の中に入れる。  強めの眠り薬だと麒澄(きすみ)は言っていたが、果たして人用の薬が竜紅人に効くのかは不明だ。  竜紅人は人ではない。  真竜(しんりゅう)と呼ばれる、竜の一族だ。  最近は滅多に見せることをしないが、その本性は蒼い色をした蒼竜だ。  竜紅人が席に戻り、何の疑いもなく酒を飲み干す。嚥下する喉の動きを見て、罪悪感に苛まれた。  悪いことをしているという自覚はある。  だかそれ以上に、香彩自身がもう限界だった。  竜紅人が店主に再び注文をする。  お前はどうすると聞く竜紅人の優しさに、心が引き裂かれそうになりながらも、香彩は無言で首を横に振った。  紅麗から城までは、大人の足で早朝から出発し、日が傾く頃合いに到着する程の距離があった。  その日の内に香彩と竜紅人が城に戻って来れたのは、竜紅人の飛翔能力のおかげだった。  ふらつく竜紅人の身体を支えながら、城の一層目にある『司冠(しこう)』に与えられた私室の寝台に、彼を寝かし付ける。  飲み過ぎたと話す竜紅人の呂律がだんだんと回らなくなり、やがて彼は寝てしまった。  薬はどうやら効いたようだった。  竜紅人が深く寝入ったことを確かめた香彩は、衣着をしまう衣装櫃(いしょうひつ)から、竜紅人が使っている腰帯を三条、取り出した。  万が一起きてしまっても、誰か分からないようにと、帯の一条で両目を覆う。  間違いなく抵抗されることが容易に想像がつくので、残りの二条で手足を縛る。  震える手を一度ぐっと握り締めてから香彩は、竜紅人の腰帯を緩めて、穿きものを軽く下へとずらした。  現れた物に、興味と恐ろしさで、ごくりと喉を鳴らす。  自身がこの慕う心を自覚するまでは、共に城の大浴室に入っていた。香彩の父親は仕事の忙しい人であった為、物心ついた時には竜紅人が当たり前のように側にいて、香彩の面倒を見ていた。共に湯殿へ行くことも日常のひとつだった。  何度も目にしていたが、今のようにじっくりと見ることもなかった所為か、香彩の心の中を妙な緊張と昂りが占める。  触れてみて、その熱さに驚く。  垂れる横髪を耳に掛けて香彩は、根元のまだ柔らかい部分を、愛おしそうに口付けた。

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