33 / 71

13※

 許せない。  あいつの口から出た言葉に汗が流れ落ちる。 「……ッ」  直感だった。逃げなければ、そう危機を感じたときには遅い。服の下に隠し持っていた短剣を奪われる。返せ、と声を上げるよりも先にメイジは躊躇なく俺の服を切り裂いたのだ。 「や、めろ……ッ!」 「暴れんなよ、お前の短刀毒塗ってあるんだろ?うっかり自滅でもされたら困る、流石の俺も一度死なれたらもう専門外だ」  息を飲む。大きく裂けた服の下に滑り込んできたメイジの手の感触に胸が、肺が、大きく上下する胸。短剣を手にしたままメイジは笑うのだ。 「舌を出せよ」 「……ッ死ね、この……ッ」  誰が言うこと聞くか、と睨んだ瞬間、メイジの目が僅かに開いた。そして、すぐに胡乱な笑みを浮かべるのだ。 「いいのか?そんな口聞いて」 「な、にが……」 「なあ勇者、こいつを誑かしたナイトどうするよ。お前の宝物を勝手に逃がそうとしたんだぞ、許せないよな」  仰々しい動作、愉しげに笑うメイジの言葉に背筋が冷たくなる。ほんの一瞬、勇者の顔が引き攣ったのを俺は見てしまった。  脳裏にナイトの顔が浮かび、心臓を鷲掴みされたように体が震えた。 「っ、ナイトは関係ないだろ!」 「いいや、あるだろ。共犯者なんだから」 「お前……ッ」  忘れていた、こいつはこういうやつなのだ。  自分と、自分の快楽のことしか考えていない。そのためにならば平気で他人を踏み躙る。 「関係ないっていうなら示して見ろよ、行動でな」 「……な……」 「脱げよ、服」 「下着も全部な」背後に立つメイジはそう、人の首に短剣を押し付けたままなんでもないように命じる。耳を疑った。けど、あの男は笑ったまま何も言わない。  勇者はただ俺を見ていた。なんで止めないんだ。なんで、そんなこと理由はわかっていた。それでも突き刺さる視線。噴き出す汗を止めることもできなかった。 「……っ」  指が動くようになっている、腕も。これで自分で脱げということだろう。俺が逃げると思わなかったのか、けれど首に押し当てられたそれはただの飾りではないと俺も知ってる。本当に腹立たしい。背後のメイジを肘で殴りたかった。けれどもしナイトにまで危害が及んだら、そう思うとただ怖かった。  ご丁寧に破られたシャツを脱ぎ捨てる。最早服としての役割すら果たせていない。下着に手を掛け、半ばやけくそに脱ぎ捨てたのだ。 「っ、……ほら、これでいいのかよ」 「恥じらいってもんがないのか?お前」 「……っ黙れよ、いい加減に……」  しろ、と言いかけたときメイジの手が顎の下に伸びる。首の付け根の境目をするりと細い指先でなで上げられただけで体がぞくりと震えるのだ。 「っ、……ん、ぅ……ッ」  言葉ごと呑まれる。勇者の目の前で当たり前のように唇を重ねてくるメイジに背筋が震えた。正気とは思えない。それともそこまでして俺のことを貶めたいのか。 「っぅ……ん……ッ!」  逃げようとメイジから離れようとするが、顎を掴まれ上を向かされれば長い舌が咥内に侵入してくるのだ。引き気味になる腰を抱き寄せられ、隠すことも許されないそこを撫でられればそれだけで体が恐ろしく熱くなる。たった数分の出来事だった、それでも俺にとっては長い時間だったのだ。 「っ、ん、ぅ……っ……!」  舌ごと食われそうなほど舌を絡められ、口の中から引き摺り出される。力が抜け、その場に座り込もうとすることすら拒まれた。濡れた音が響く。獣染みた荒い息が自分のものだと気付いた瞬間ただ目の前が赤くなった。  妙な術のせいだ、触れられただけで恐ろしく反応してしまう己の体に絶望するのも束の間。ようやくメイジは俺から唇を離したのだ。 「なに自分だけ気持ちよくなってんだよ。……ちゃんと、勇者サマにごめんなさいってしろよ」 「っ、な……に……」  何を、と言い終わるよりも先に、伸びてきた手に頬を掴まれる。目の前にはあいつがいて、こんな顔、姿見られたくなかった俺はそれを押し退けようとするがろくに力が入らなかった。 「っ、ゆ、……ぅ……ん……ッ」  絡め取られた舌が痺れるように疼く。ただ一人だけ服を剥かれ、これでは本当に奴隷かなにかだ。思いながらも舌を拒むことすらできなかった。覆い被さってくる勇者の体重を受け止めきれず、ずるずると落ちそうになる体を背後からメイジに支えられるのだ。 「っ、スレイヴ……、っ、スレイヴ……」 「っ、ん、ぁ……ッ待っ、ん゛、ぅ……ッ!」  唾液をたっぷりと含んだ粘膜同士が触れ合うたびに耳障りな粘着質な音が混ざり合う。「勇者サマ激しいねえ」と笑うメイジの声が耳障りだった。犬のように舐められ、噛み付くように貪られ、垂れる唾液すら啜られる。こんなことしてる場合ではない、そう頭で理解してるのに勇者の熱に触れられただけで体が反応するのだ。  一糸纏うことすら許されない中、剥き出しになった胸を撫でられ背筋が凍り付く。メイジだ。二人との口付けでより鋭利になった神経は俺にとっては毒に等しい。 「っふ、ぅ、……ッ」  手袋越し、ドサクサに紛れて転がされる両胸の突起に堪らず身を攀じるがこいつら二人に捕まって逃れられるわけがない。それを分かっててメイジは俺の胸を更に遠慮なく揉みしだくのだ。  カリカリと引っ掻かれ、時には優しく撫でるように潰され、緩急付けるメイジの触れ方が不快で仕方なかった。 「っ、や、……ッ、ん、む……ッ!」  ぢゅるる!と舌ごと吸い上げられ、一時足りとも離れるのを許さないとでも言うかのように後頭部に回された勇者の手はがっちりと俺の頭を固定し、喉奥まで舌を捩じ込むのだ。 「ん゛、ぅ、……ッ、ぅ……ッ」  密着する体、下腹部に感じる勇者の熱に血の気が引いた。これも全部メイジの作り上げた幻覚で、俺はただ悪い夢を見ている。そう思いたいのに、股間に押し付けられる膨らみも、熱も全部本物なのだ。まだ勇者がメイジに操られている、そう思った方がましだと思えるほどだった。  ぢゅぽん、と生々しい音を立て引き抜かれた舌先に、長時間絡められ濡れそぼった舌を暫く動かすことはできなかった。 「っ、スレイヴ……っ、口を開け」  朦朧とする頭の中、勇者の声が響く。強請るように後ろ髪を撫で付けられ、耳を撫でられればそれだけで腰がぞくりと震えるのだ。  こんなこと、聞きたくもない。けどどうしてもナイトの顔が過ると、逆らう気が失せてしまうのだ。あいつを巻き込むくらいなら、と口を開く。  瞬間。 「ん゛ッ、ぅ……ッ!」  舌伝いに流し込まれる唾液に全身が震えた。口を閉じようとして、寸でのところで堪える。唾液を飲まされ、口を閉じるなと言われ、それを拒むことすらもできない。喉奥へとぬるい唾液が伝っていく、腹の奥底に勇者の体液が流れていくのを感じ、益々全身が熱くなるのだ。 「っ、うわ、勇者サマ……」 「……吐き出すなよ。全部飲み込め」 「っ、ふ……ッぅ……」  こんなこと、なんの意味も成さない。わかっていたが、これはあいつなりの俺への罰なのだ。そう思うことでしか耐えられない。吐き出しそうになるのを堪え、鼻呼吸を止めて口の中のそれらを喉奥へと流し込む。今度こそ勇者の一部が俺の中へと溜まり落ちていったのだと思うと目の前が眩むのだ。 「……口開けて見せるんだ」 「っ、ん、……ぅあ……」  空になった口の中を見て勇者は嬉しそうにするわけでもなく、失望したような顔をするのだ。自分からやらせたくせに、お前は本当に何でもするんだなとでも言うかのように。 「……っ、もういい……」 「勇者サマ?」 「……俺の知ってるあいつは、もうここにはいない。メイジ、お前の言ったとおりだな」 「……っ、な、に、……ッ言って……」  意味がわからなかった。それはこちらのセリフだ、と返す暇もなかった。背後、メイジの指は腿、膝上から足の付け根までを撫であげ、そしてそのまま俺の足を開かさせるのだ。 「っ、ゃ、めろ……ッ!メイジ……ッ!」 「なあ、勇者サマそんなに落ち込むなって、よく考えてみろよ」 「っ、なぁ……ッ!」  浅ましく勃起したそこを指で弾くように持ち上げ、そのままその奥、ようやく閉じていたそこを指先でぐるりと撫でられた瞬間恐ろしいほど体が熱くなる。脈は加速し、呼吸が浅くなっていくのだ。「メイジ」と背後のやつを睨んだとき、メイジは薄く微笑む。 「勇者、お前の大切なスレイヴちゃんは死んだ。ここにいるのはお前を捨てた裏切り者だ。なら、どうする?」 「っ、ぉ、まえ、この……ッ、ん、ぅ……ッ!」 「新人教育はリーダーの務めだぞ、勇者サマ」  足を持ち上げられそのまま大きく左右に拡げられる肛門。顔面に血が昇った。暴れようとするが力が入らない。剥き出しになったそこを隠そうとする腕すらも伸びてきた触手に拘束される。 「っ、や、めろ……ッ」  頼むから、なんて言葉は声にならなかった。次の瞬間に俺は勇者に犯されていた。

ともだちにシェアしよう!