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再生1

 「で、お前の彼女どうなの?」  同僚が聞いた。  作業に必要なものを準備しながら。  彼はLINEにうち込む。  「別れた。他にも相手がいた」  正直に。  「おおっ、ハードだな」  同僚は驚く。  「・・・大丈夫か?」  同僚の言葉に彼は肩をすくめて見せた。  まあ、なんとか。  そんな感じだった。  あの学校の現場は外してもらった。  本当のことは言えなかったけれど、めったにない彼の願いに会社も受け入れてくれた。  今日は珍しく昼の仕事。  ビルの窓拭きだ。  小さなビルなら彼一人でするのだけど、今日のビルは少し大きいから二人で行う。  車に道具を載せ、現場へ向かった。  5階建の建物だ。  屋上からロープを下ろし、命綱をつけながら外窓を拭いていく。   特集技能と言っていい。  同僚と彼はもうこの仕事が長いので、出来る。  15からやっているのだ。  割と給料はいい。  母親の入院費に消えたし、まだその時の借金を返しているけれど、それでも贅沢を言わなければ暮らせる。  仕事は好きだ。   綺麗になる窓を見ればスッキリするし。  高いところでロープ一本てバランスを取りながら彼は鮮やかに動いていく。    あれから2ヶ月。    なんとか耐えれているように思う。   優しい声や指。  抱き締められた広い胸。   考えたなら、つらくならないわけではないし。  身体が疼くのも困った。  今では後ろの穴に指を入れながら、それまではろくにしたことのなかった自慰をしている。  毎日のように。  覚えた身体の欲望は本当に困る。  持て余している。  でも、それでも、一緒にはいられないのだ。  それだけは分かっていた。  彼はロープ一本でまた次の階へ降りていき、窓を拭きはじめる。  普通の人間なら足の竦む高さで。    そう。  彼は出来ないことも多い。  人に怯えるところもある。  でも、心の底からの臆病者ではないのだ。  だからこそ彼は痛みを受け入れていた。  そして、信じるのだ。  癒される日が来ると。    だから彼は風に揺れながら、歌ったのだった。  お前の彼女とどうなの?」  同僚が聞いた。  作業に必要なものを準備しながら。  彼はLINEにうち込む。  「別れた。他にも相手がいた」  正直に。  「おおっ、ハードだな」  同僚は驚く。  「・・・大丈夫か?」  同僚の言葉に彼は肩をすくめて見せた。  まあ、なんとか。  そんな感じだった。  あの学校の現場は外してもらった。  本当のことは言えなかったけれど、めったにない彼の願いに会社も受け入れてくれた。  今日は珍しく昼の仕事。  ビルの窓拭きだ。  小さなビルなら彼一人でするのだけど、今日のビルは少し大きいから二人で行う。  車に道具を載せ、現場へ向かった。  5階建の建物だ。  屋上からロープを下ろし、命綱をつけながら外窓を拭いていく。   特殊技能と言っていい。  同僚と彼はもうこの仕事が長いので、出来る。  15からやっているのだ。  割と給料はいい。  母親の入院費に消えたし、まだその時の借金を返しているけれど、それでも贅沢を言わなければ暮らせる。  仕事は好きだ。   綺麗になる窓を見ればスッキリするし。  高いところでロープ一本てバランスを取りながら彼は鮮やかに動いていく。    あれから2ヶ月。    なんとか耐えれているように思う。   優しい声や指。  抱き締められた広い胸。   考えたなら、つらくならないわけではないし。  身体が疼くのも困った。  今では後ろの穴に指を入れながら、それまではろくにしたことのなかった自慰をしている。  毎日のように。  覚えた身体の欲望は本当に困る。  持て余している。  でも、それでも、一緒にはいられないのだ。  それだけは分かっていた。  彼はロープ一本でまた次の階へ降りていき、窓を拭きはじめる。  普通の人間なら足の竦む高さで。    そう。  彼は出来ないことも多い。  人に怯えるところもある。  でも、心の底からの臆病者ではないのだ。  だからこそ彼は痛みを受け入れていた。  そして、信じるのだ。  癒される日が来ると。    だから彼は風に揺れながら、歌ったのだった。    仕事から帰ってきた彼は目を見張った。  団地の入口に見慣れた車があったから。  それは彼を送ってくれた車だった。    そして、車の前には男が立っていた。  痩せた、そう思った。  ひどく弱って見えた。  胸が痛んだ。  でも、彼は意を決して歩く。  男の方を見ようともしないで。   その前を堂々と通り過ぎようとした。  「待って」  男が言った。  立ち止まらない。  この人とは終わり。    この人はバレなければ、ずっとあの男ともしながらオレを抱いていたんだ。  黙っていればわからないって。  それは酷すぎる。  忘れちゃいけない。  あの男に抱かれながら、オレを抱いていたんだ。  そんなの嫌だ。  通り過ぎていく彼に男は叫んだ。   「ちゃんと別れた!君だけだ!」  男の言葉に彼は立ち止まる。  え?  なんて?   振り返る。  振り返ってしまった。  男が駆け寄ってきた。  抱き締められた。  人前なのに、人前なのに。  でも、彼は拒否できないどころか、男に抱きついてしまった。  胸に顔を埋める。  この胸に帰りたかったんだと思い知る。  決して見せなかった涙が溢れた。  止まらない。  「仕事のこともあるから、時間かかってごめん・・・ちゃんと別れた。もう、アイツの仕事はしない。だから・・・もう会わない」  男は彼を抱き締める。   「僕は音楽以外の仕事をしたことがない。これからどうやって稼ぐのかも正直まだ考えてない。アイツを怒らせたから音楽の仕事は出来ないかも。でも、別れた」  囁かれた。  「僕が貧乏で役立たずになっても、僕のこと好きでいてくれる?」  情けなさそうに男は言った。  彼は頷く。  何度も頷く。  泣きながら頷く。  「そうだよね、君はそういう人だよね・・・愛してる」  男は彼を抱き締めた。  彼は頷く。  頷くことしか出来ない。    オレを選んでくれるなんて思いもしなかった・・・。  全部失ってもオレの所に来てくれるなんて。    「あの・・・ムードなくて悪いんだけど」   男は苦笑いした。  固いモノが彼の腹に当たっていて、彼は男の言いたいことは察した。  「ここに車とめておくわけには行かないんだよね、駐禁きられちゃう。てわけで、車乗ってくれる?」  男に言われて彼は泣きながら笑った。  その顔を男は目を細めて見ていた。  「僕の恋人」  男は優しく囁いた。

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