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第21話
アパートに着く頃には雪は深々と降り落ちて、牡丹雪に変化していた。
アパートに到着し部屋に入ると冷気が頬に触れて、急いでエアコンとストーブをつけたが、ほのかに温かくなるだけだった。そして、悴む寒さがすぐに解消されるわけでもなく、先に風呂に湯を溜めた
「ごめん、狭いし寒いから………。」
「急にごめんね。申し訳ないけど、皐月の部屋に入れて嬉しいよ。」
お互い防寒具を着たまま、雪を払った。
大きな牡丹雪が肩から落ちて溶けると、床が濡れた。
蒼は申し訳なさそうに頭を下げ、穏やかに微笑んだ。
「…寒いから、先にお風呂に入って温まりなよ。」
雪で濡れた蒼にタオルを押しつけて、狭いワンルームから洗面所へ案内した。
部屋は都内より若干広めだが、やはり背の高い蒼が部屋にいるとなんだか窮屈に見える。
「一緒に入らない?寒いでしょ」
上着を脱ぐ蒼から視線を外して、部屋に戻ろうとすると手首を掴まれた。
大きな掌に強い力で掴まれると、顔を俯いてもぞもぞと答えた。
「………ごめん、それは無理だよ。」
ドキマギと鼓動が鳴り、緊張を隠しながらやんわりと断ろうとした。
確かに自分も濡れて寒かったが、一緒に風呂に入ったら隠す場所もないのに、蒼に欲情するのが目に見えていた。
「大丈夫だよ、男同士だし…」
「ごめん、あの、俺…ゲイで…。」
不意に言葉が出てしまい、自分で呆然となった。
終わったと、思った。
冷えた身体は硬直し、掴まれた手はどんどんと硬くなっていくのを感じる。
そして音もなく深々と雪が降り積もり、冷たい空気の中、しばしの沈黙が降りた。
「…………………うん、知ってる。」
「え?」
不意に引き寄せられると、後ろから手が伸びて身体を囲んだ。
背中に熱い温もりを感じ、急に大きな胸の中にすっぽりと埋まった気がした。
「ごめん、本当は場所を選びたかったけど、………皐月、君が好きなんだ。付き合って欲しい。僕も君が好きだから同じだよ。」
急に後ろから抱き締められて、ムスクの香りが広がり、濡れた髪が頬を掠めた。
ポタポタと溶けた雪かまた床に落ちた。
「……あの……。」
「………忘れられない人がいるのは知ってる。」
なんと答えればいいのか分からなかった。
確かに蒼に惹かれていて、互いの鼓動が聞こえそうなぐらい緊張する自分が分かった。
「……………僕を利用してもいいよ。」
蒼は低く甘い声で誘った。
ずるい。
こんなの抗えない。
耳に蒼の肉感的な唇が触れ、甘い痺れが耳元から走った気がした。
「………ぁっ……」
「皐月、キスしていい?」
不覚にも寒さで震えた身体はその甘く低い声に蕩けそうになり、瞼を閉じてしまい、自分の甘さにうんざりした。
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