21 / 59

第21話

アパートに着く頃には雪は深々と降り落ちて、牡丹雪に変化していた。 アパートに到着し部屋に入ると冷気が頬に触れて、急いでエアコンとストーブをつけたが、ほのかに温かくなるだけだった。そして、悴む寒さがすぐに解消されるわけでもなく、先に風呂に湯を溜めた 「ごめん、狭いし寒いから………。」 「急にごめんね。申し訳ないけど、皐月の部屋に入れて嬉しいよ。」 お互い防寒具を着たまま、雪を払った。 大きな牡丹雪が肩から落ちて溶けると、床が濡れた。 蒼は申し訳なさそうに頭を下げ、穏やかに微笑んだ。 「…寒いから、先にお風呂に入って温まりなよ。」 雪で濡れた蒼にタオルを押しつけて、狭いワンルームから洗面所へ案内した。 部屋は都内より若干広めだが、やはり背の高い蒼が部屋にいるとなんだか窮屈に見える。 「一緒に入らない?寒いでしょ」 上着を脱ぐ蒼から視線を外して、部屋に戻ろうとすると手首を掴まれた。 大きな掌に強い力で掴まれると、顔を俯いてもぞもぞと答えた。 「………ごめん、それは無理だよ。」 ドキマギと鼓動が鳴り、緊張を隠しながらやんわりと断ろうとした。 確かに自分も濡れて寒かったが、一緒に風呂に入ったら隠す場所もないのに、蒼に欲情するのが目に見えていた。 「大丈夫だよ、男同士だし…」 「ごめん、あの、俺…ゲイで…。」 不意に言葉が出てしまい、自分で呆然となった。 終わったと、思った。 冷えた身体は硬直し、掴まれた手はどんどんと硬くなっていくのを感じる。 そして音もなく深々と雪が降り積もり、冷たい空気の中、しばしの沈黙が降りた。 「…………………うん、知ってる。」 「え?」 不意に引き寄せられると、後ろから手が伸びて身体を囲んだ。 背中に熱い温もりを感じ、急に大きな胸の中にすっぽりと埋まった気がした。 「ごめん、本当は場所を選びたかったけど、………皐月、君が好きなんだ。付き合って欲しい。僕も君が好きだから同じだよ。」 急に後ろから抱き締められて、ムスクの香りが広がり、濡れた髪が頬を掠めた。 ポタポタと溶けた雪かまた床に落ちた。 「……あの……。」 「………忘れられない人がいるのは知ってる。」 なんと答えればいいのか分からなかった。 確かに蒼に惹かれていて、互いの鼓動が聞こえそうなぐらい緊張する自分が分かった。 「……………僕を利用してもいいよ。」 蒼は低く甘い声で誘った。 ずるい。 こんなの抗えない。 耳に蒼の肉感的な唇が触れ、甘い痺れが耳元から走った気がした。 「………ぁっ……」 「皐月、キスしていい?」 不覚にも寒さで震えた身体はその甘く低い声に蕩けそうになり、瞼を閉じてしまい、自分の甘さにうんざりした。

ともだちにシェアしよう!