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第8話

「……にすんだよっ!」  首輪を取り出しはめようとすれば、震え声で吠えてくる。逃れられないこの状況でも、必死に自我を保とうとする彼の精神には感服するが、徹底的にそれを削ぐため伊織はリードを手に掴み、それを強めに引っ張った。 「ぐっ、うぅっ!」  ソファーの上から転がり落ちた航太の呻きが、耳に心地よく響いてくる。 「行くよ」 「無理、無理だからっ!」  軽くリードを引いた伊織は、そのまま歩きだそうとするが、手足を拘束された航太がついてこられる筈もない。そんなことは分かっていたが、あえて示して見せたのは、航太に自分の立場をきちんと理解させるためだった。 「だっこしてほしい?」 「……ろす」 「なに? 聞こえない」  うずくまっている航太の前へと膝をつき、俯いている彼の髪の毛を掴んで顔を上向かせる。 「ねえ航太、ごめんなさいは? 人にゲロぶっかけておいて謝罪も無し?」 「それはてめえがっ!」  「へえ、論点をすり替える気? まあいいや。臭いから早く洗っちゃおう」 「もう止めろっ! 約束したよな! 俺が首を振ったら止めるって……おまえ、約束……ぐぅっ!」  わめいている航太の体をひっくり返して腹を殴る。もちろんきちんと手加減をして。 「痛い? 航太に殴られた子達は、もっと痛かったはずだけど」  それでもなにかを言おうと開いた航太の口を掌で塞ぎ、淡々とした口調で告げれば、大きな瞳を見開いた彼は諦めたように動かなくなった。  男にしては小柄な体を担ぎ上げ、バスルームへと運んだ伊織は、自らも服を脱ぎ捨ててからタイルの上に転がした航太に熱めのシャワーを浴びせかける。 「あちいっ、てめっ……死ねっ!」 「そんなこと言っていいのかな」  不自由な体勢ながらも、這って逃げようとしている航太の背中を踏みつけ伊織が告げれば、悔しそうに唸った彼は「覚えてろよ」と怒りに震える声で吠えた。

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