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「柚木はラッコが好きなのか?」 いつの間に斜め後ろに立っていた比良に問われて柚木は否応なしに赤面した。 「はわわ……」 「はわわ?」 「ッ……す、好きっ、たった今好きになったところ、です」 「どうして敬語なんだ? 同級生なのに」 不意討ちの急接近に混乱している柚木はまともに回答できずに口をパクパクさせた。 比良はガラスの向こうで飼育員と戯れているラッコを見、笑みを浮かべる。 「でも、確かに目隠ししてるみたいで可愛いな」 「う、うん!」 「柚木の言う通り、あざとい部分もあるのかもしれない」 「そっ……そだね!」 (うそでしょ) 比良くんとおしゃべりしてる。 一年生の間、まともに会話したのは入学式の日くらいで、あとはほぼ接触ナシの日々を過ごしてきたモブの中のモブみたいなおれが。 「飼育員さんとのコミュニケーションが凄い。信頼関係がしっかり築かれているんだろうな」 飼育員さんとラッコが交わす絶妙な遣り取りに比良は声を立てて笑った。 (とっ……尊い……!!) 耳まで真っ赤になった柚木は両手で頬を覆った。 あっという間に紅潮した顔に気づかれたらどうしよう、挙動不審さながらにオロオロしていたら、比良とバッチリ視線がぶつかった。 「柚木、ラッコの真似してるのか?」 優しい笑顔を向けられて、視線が五秒以上も重なって、柚木の心臓はあわや止まりかけた。

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