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第8話「緊張する」

 ついさっきまでは皆が居て、楽しい空間だったけど。  今、四ノ宮と2人で息が詰まりそう。 「……とりあえずここで話してもいい?」 「はい」  四ノ宮が頷くので、オレは立ち上がって、ドアを閉めた。  間違っても話を聞かれたくないし。  長机で、ロの字型に並んでいる席。  オレは、四ノ宮の隣の隣の席に座った。  ああ。もう。  すげえ緊張する。  失言して、墓穴掘らないように気を付けないと。  ――――……今知られてるのは、昨日、男とラブホに居たって事だけだ。 「……昨日の夜、オレお前と会ったよな?」  オレがそう聞くと、四ノ宮はふ、とオレに視線を向けて。 「はい」  と頷いた。 「……オレの相手、見たよな?」 「――――……顔は見てませんけど」  顔は、見てなくても。  ……姿かたちは、見たって事だよな。  ……オレみたいに、女の子にも見えそうな服なんて、着てなかったし。背も高い奴だったし。  ――――……もう誤魔化しようがないよな。  何とか、何かしら事情があって入ったんだとか、  下手な言い訳を考えもしていたのだけれど。  …………こいつに、下手な言い訳が通じる気が、全くしない。  まっすぐな視線。  嘘なんかついて、キれられたら、マズイ。  ちゃんと、話そう。  苦手だけど。  …………なぜか死ぬほど、苦手だけど……っ。 「……とりあえず…… 誰にも言わないでくれて、ありがと」  そう。四ノ宮だと思うから言葉が出ないんだ。  仲の良い友達だと思おう。   礼を言ったら、四ノ宮は、いいえ、と笑んだ。 「誰にも言わないですよ」 「……」  その言葉に、じっと四ノ宮を、見つめる。 「そんなの、言う訳ないじゃないですか。 言うと思ったんですか?」 「――――……誰かには話すかも、とは思ったかも……」 「ひどいな、先輩。 オレ、話して良い事かどうか位、分かりますよ」 「……ごめん」  ……うん。   そう。  こいつは「いい奴」なんだよな……。  そうだよ、言いそうだよ、こう言う事。  表立って、「ゲイだ」なんて噂立てたら、そういう噂立てる奴なんだって思われる可能性もあるもんな。  ……そういう事は、しなそう。 「……聞いても良いですか?」 「あ、うん」 「雪谷先輩て、バイですか? ゲイですか?」 「――――……」  まあ。気になる、よな。  何て言おう。  ……正直に、言っといた方が、良いかな……。   「そういえばずっと彼女は居ないって、聞いた事ありますけど」 「……女の子には、興味がないから、オレ」 「あんなにモテるのに?」 「……女の子は可愛いから好きだけど……そういう興味が、わかない」 「そうなんですね……」  それきりしばらく、四ノ宮は黙る。 「――――……誰にも秘密にしてるんですか?」 「……あ、うん。 身近な奴には、言ってない」 「昨日の人は、恋人ですか」 「……違う。クラブで知り合った奴」 「……へえ。そう、ですか」 「――――……」  また、黙ってしまった。  ――――……四ノ宮は、背が高い。足も長い。顔も良い。  ほんと容姿に恵まれているなーと思ったら、家は超金持ちらしい。  高校から一緒の奴らが居て、そういう奴らから噂は広まってるらしい。  イケメン過ぎて有名なこいつの、そういう噂を好きな奴らはたくさん居るらしくて、まあそこは分からなくはないけど、それが学年も超えたオレにまで入ってくるのはすごい……とは思う。  でもって、このゼミにも易々と合格して入ってきて、オレら2年の前でも、余裕で意見を述べてくるんだから頭も良いんだろうし。高校時代バスケ部で活躍してたらしいのも、噂で聞いたから、運動神経も良いらしい。  …………出来すぎだなあ……怖い。  って、ここでも何故かすごいとは思わずに、怖いと思うオレ。  もはや、条件反射だな。  ……黙って、少し俯いてる横顔が彫刻みたい。  キレイな顔だよなー。  手も大きくて、指も綺麗。  ……顔だけなら、結構好みなのに。  オレは何で、こいつがこんなに苦手なんだろう。  近寄りたくないと、思ってしまう程に。

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