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第6話

 葬儀も終わり、いよいよ出棺の時を迎えた。葬儀の前に降りだした雨は少しその雨脚を強めている。 悠希と太田は、葬儀社が貸し出してくれたビニール傘に二人で収まって、彼の棺が出てくるのを待っていた。他の二人の元同僚は故人の棺を運ぶらしい。悠希も誘われたが、それは丁重に断った。 「このあとどうするんだ?」  冷たい雨に震えながら太田が悠希に聞いてくる。出棺を見送れば今日の予定はすべて終わる。彼が小さな骨になるのを見届けるのは親族だけだ。 「終わり次第、東京に戻るよ」 「そうか。なあ、もし時間があるのなら、山本や鈴木と四人でどこかで一服しないか。各務部長を偲んで、思い出話でもしよう」  悠希は隣の恰幅の良い男を一瞥した。こいつに伝えられる、あの人との思い出話などあるわけがない。  ――すべては彼と……。俺との二人だけの秘め事だったのだから。 「いや、すまないが、もう帰りの新幹線の予約を取ってあるんだ」  悠希の嘘に、そうか、と元同僚は残念そうな表情をした。  家族だけの最期の別れが済んだのか、本堂から故人の親族が出てきた。式の最後に本日の喪主から参列者への感謝の言葉が伝えられる。しかし挨拶に立った喪主は故人の妻ではなく、故人の父親だった。  涙ながらの挨拶が終わり、彼を納めた箱が担ぎ出されてきた。霊柩車へと箱が納められるさまを眺めていると、悠希は後ろから小さく声をかけられた。 「藤岡さまでしょうか」  傘に一緒に収まっていた太田と同時に振り返ると、そこには黒のスーツ姿の女性が立っていた。どう見ても弔問客ではない。葬儀社のスタッフなのだろう。 「このあと、ご遺体を火葬場へとご案内するのですが、ご遺族がぜひ、藤岡さまにもご一緒頂きたいと……」  悠希には彼女が何を言っているのか理解出来なかった。 「……なぜ?」  短く問うた悠希に隣の太田が、 「行ってこいよ。おまえは部長の部下の中では一番、あの人に可愛がられていたんだから。おまえだけの最期の別れをしてくればいい」  太田の台詞に悠希の肩がぎくりと動いた。行かせますから、と勝手に女性スタッフに返事をする太田の細い目を見つめて悠希は、こいつに俺達の何が分かっているのか、と疑心暗鬼になった。大体、火葬場まで行ったところで彼とは二人きりになれないのだ。それに、もう口もきけない彼と何を話せと言うのか。 (もう終わったことなのに……)  それでも太田は嫌がる悠希の腕を掴むと、すでに親族が乗り込んでいるマイクロバスへと悠希を押し込んだ。

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