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オメガじゃないオメガ ②

 「専務、急なご用があったのでは……」  指示されないと仕事ができないのは好ましくないが、執務室へ戻ってみても急な用件は見当たらず、光也に伺いを立てる。 「いえ、仕事は今のところ順序よく進んでいます。……が、戻りが遅いので気になっただけです」 「申しわけありません。会議室の片付けをしていました」 「私が向かった際、片付けは終わっていたようですが」  光也が苛立っているように感じるのは気のせいだろうか。仕事中の光也が余裕なく会話を重ねるのも、指でとんとん、デスクに音を立てるのも、これまで見たことがない。    「すみません。チームの方と話し込んでしまいまして。計画をスムーズに進めていくために、コミュニケーションも大事だと思ったので……」 (……あれ? もしかして今、叱られてるのかな)  申し開きをしながらふと思って、途端に胸がきゅん、と震えた。 (叱って、叱って。もっと強く) ♢♢♢ 「仕事を放り出して話し込むとは、随分と緩い口ですね。これでは下の口はもっと緩いのでは?」 「そ、そんなことありません!」 「じゃあ見せてみなさい、さあ」 「あっ、専務っ……!」  専務は荒々しく秘書のスラックスを降ろし、双丘を鷲掴みにした。まだ明るい部屋の中で、秘部があらわになる。 「話したくても喘ぎ声しか出ないよう、下のお口から塞いであげましょう。しっかりお締めなさい」 「ああっ、そんなっ!」  ぐ、ぐぐっ……。  専務の猛りは秘書を一気に貫いて────  ♢♢♢ 「……君、藤村君」 「はっ! はい!」  いけない。また妄想劇場を繰り広げてしまった。  千尋は急いで残像を消し、顔を上げる。 「すみません。注意したわけではないんです。今のは気になさらないでください。余裕がなくて恥ずかしいです」  うつむいた千尋を見て落ち込ませたと思ったのだろう。光也はきまり悪そうに言った。 「余裕……。やはり時間を急ぐ件があったのでしょうか」  気づけない自分が恥ずかしい。  千尋が反省の憂いを込めた瞳でじっと見つめると、光也は小さく息を吐く。  恋愛関連に疎い千尋には、光也の穏やかでない気持ちは届かない。 「いいえ、本当に大丈夫ですから。それより今日は病院の予約の日です。成沢さんが送ってくださいますから、遅れないよう退社してくださいね」 「……はい」  今朝も光也は同じことを言った。元は光也が付き添うはずだったが、急な役員食事会が入って行けなくなったため、心配しているのだろう。  子供じゃないから一人で行けるのにと思いつつ、千尋も内心は不安で、光也に一緒に行ってほしいと思っていた。  ────光也が予約したのは第二性専門クリニックの産科外来だった。

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