21 / 184

あなた色に染められて①

 成宮先生とお付き合いを始める時に交わした約束。いや、今となれば奴隷契約の気もしてくる。  それは、『絶対に浮気はしないことと』と、『恋人がいることを公言すること』。  俺の前では、常識など一切存在しない成宮先生からしてみたら、至極まともな条件だと思う。俺は、快くこの契約に同意をした。  そんな約束を真面目に守ってか、日常茶飯事に告白されている成宮先生だって、『ごめんなさい。俺にはお付き合いしている人がいるから』って相手にお断りを入れているらしい。そのお付き合いしている人っていうのが俺の訳だから……、まぁ悪い気はしないのだ。  成宮先生に恋人がいるっていうことは、みんなが知っていることなのに、それでも告白する人が後を絶たない。この前は、一番告白される可能性が高いであろう看護師さんに告白されてたし、その前は同じ医師に……打って変わって患者さんって時もある。  その都度、 「申し訳ありません。僕にはお付き合いしている恋人がいるので……」  と、丁寧に頭を下げている成宮先生を見れば、モテるっていうのも大変なんだな……って、いつも思う。それと同時に、フラれるとわかっていながら、なぜ告白するのだろう……と不思議にも感じるのだ。  フラれるとわかっていても、それでもその想いを伝えたい。それだけ、成宮先生のことが好きなのかもしれない。 「はぁ……」  俺は大きな溜息をつく。また遭遇してしまった……成宮先生が告白されているところ。もう見慣れたとは言え、胸がギュッと締め付けられる思いがする。目は慣れたはずなのに、心はいつまでたっても慣れてなんかくれない。  成宮先生に告白したのは、俺よりも年上の看護師さんだ。気が強そうだけど、仕事もできるし、患者さんからの信頼も厚い。何より、彼女は女の子だ。僕が持っていない物を持っていて、成宮先生にしてあげられない事をしてあげられる、そんな奇跡みたいな存在。  それが、少しだけ苦しかった。  強気な彼女が涙ぐみながら先生から離れて行くのを、俺は呆然と見つめる。  いつか俺も、きっと今の彼女みたいに切り捨てられる時がくるのかもしれない……成宮先生と付き合った時から、俺の中で何となくできている覚悟みたいなもの。  だって、あんなハイスペックな神様みたいな人が、こんな凡人を相手にするはずなんかない。そう、いつ成宮先生に捨てられてもいいように、覚悟はできているんだ。だから、大丈夫……傷つかない。  

ともだちにシェアしよう!