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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(5)

 前王からの軍拡路線を受け継ぐかたちで、巨大な軍事力を背景に周辺国家を次々と併合し強大な国家を作りあげている。  周囲も子飼いの軍人で固め、誰も逆らえないとか。 「しょせん奴隷上がりの卑しい男だ」  アルフォンスは呟く。  相手を侮蔑するというより、自分が臆さないための虚勢の響きをそれは秘めていた。 「私も奴隷上がりだ。あんたに救われた」  だからディオールの言葉に、彼はひどくバツが悪そうに顔を俯けたのだった。  ──悪い、そんなつもりじゃなかった。  小さな声に、ディオールの目元が微かに歪む。 「いや、私が意地の悪い言い方をした。忘れてくれ、アル」  気まずい空気を振り払うようにアルフォンスは足を止めた。  敵の宿営地が見えてきたのだ。

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