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【第三章】皇妃達の洗礼①

 長い階段を上った後は、急な階段を下りることとなる。  馬車に長時間乗っていた仔空(シア)の足はガクガクと震え、まだ馬車に揺られている感じがした。そんな仔空が余程可笑しいらしく、玉風(ユーフォン)がニヤニヤと笑っている。 「其方は本当に見ていて飽きないなぁ」 「か、からかわないでください」    仔空をまるで宝物を眺めるように見つめてくる玉風に、相変わらず仔空の心は甘い鼓動を打っている。  王宮で皇妃やその子供達が暮らしている場所を『後宮(こうきゅう)』と呼ぶが、九垓城ではその後宮に『栄華宮(えいかぐう)』という名が付けられている。  現在は先代の皇帝である魁晧月(カイコウゲツ)の皇后美麗(メイリン)が『百合の宮』に。更に、つい最近玉風の元へと嫁いできた四妃が暮らしていた。四妃の中で一番年長で頭が切れる(リェン)妃は『水仙の宮』。気が強く負けず嫌いの(ワン)妃は『橘の宮』。八方美人で世渡りの上手い(シャオ)妃は『紫陽花の宮』。おっとりとしていて大人しい(フォン)妃は『椿の宮』。后妃達はそれぞれに宮を与えられ、大勢の召使に囲まれて生活をしている。  彼女達は数多くの女性の中から選ばれた生え抜きの美女達だと、仔空は噂で聞いたことがあった。  階段を下りた先で、立派な馬に引かれた馬車が再び仔空達を待ってくれていた。 (また馬車か……)  仔空は大きく溜息を吐く。しかし仕方ないことなのだ。もし歩いて栄華宮へと向かったら、きっと物凄い距離だろう。 「お待ちしておりました、陛下」  宦官達は、皆拱手礼をしながら深々と頭を下げる。 「良いから早く馬車を出せ」   腫物に触るかのような扱いに玉風は慣れているのだろうが、仔空はそうではない。いちいち「本当に自分などの為に申し訳ありません」と、頭を下げたくなってしまう。 「ほら。仔空よ、参れ」   そんな仔空の気持ちなど露も知らない玉風は、先ほどの冷淡さと打って変わって、嬉しそうに仔空に手招きをしてくる。仔空は居たたまれない気持ちを抱きながら、馬車に揺られたのだった。  

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