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皇帝陛下を待ち侘びて⑥

 落ち込む仔空(シア)の元に、香霧(コウム)が息を切らせてやってくる。 「仔空貴人(シアきじん)! とても良い知らせが入りました!」 「良い知らせ……ですか?」 「はい。とっても! 皇帝陛下のことです」 「陛下……陛下がどうされたのですか!?」  香霧の話によると、玉風(ユーフォン)は仔空が後宮に嫁いできたあの晩、隣国が国境を越え攻めてきたとの一報が、玉風の元へ入ったそうだ。押し寄せてきた隣国の軍は暴徒化し、魁帝国(かいていこく)の城下町にまで被害をもたらした。仔空の家族や五大家と呼ばれる地主が住んでいる町を取り囲み、火を放つ計画が進んでいることを聞いた玉風が、その翌朝には大軍を率いて現地へと向かったとのことだった。 「突然の出陣だったのですが、最後の最後まで仔空様のことを心配されておりました。私がいるので大丈夫です、とお伝えしたところ、後ろ髪を引かれながらも出陣されていきましたが……」 「それで陛下は!? 陛下はご無事なのですか!?」  仔空の体から一瞬で血の気が引いて行くのを感じる。もしかしたらこのまま帰ってこないのではないか……と、心がザワザワして仕方ない。 「大丈夫ですよ、仔空貴人。陛下は無事に勝利を収められました。明日にでも帰ってくると、つい先程遣いの者が城に到着したばかりです」 「本当ですか……なら良かった……」  ホッとした仔空は、急に膝がガクガクと震え出したのを感じる。そのまま崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。 「ずっと黙っていて申し訳ありませんでした。陛下から、仔空貴人が心配するから、しばらく黙っておくよう、お達しが出ていたのです」  香霧は申し訳なさそうな顔をしながら、深々と拱手礼をした。 「それ程、仔空貴人を大切に思われているのです」 「でもよかった、陛下がご無事なら……」  その香霧の言葉に、つい先程まで感じていた不安がスッと消えていくのを感じる。それはまるで、根雪が春の暖かい日差しで溶けて行く瞬間のようだ。 「陛下が私の心配を?」 「はい。周期的にもうすぐ仔空貴人は雨露期(ヒート期)に入るはずです。きっと陛下も、今頃貴方に会いたくて急いで城へと向かっていますよ」 「良かった……」  仔空は再び涙が溢れ出しそうなのを堪え、香霧に向かって微笑んだ。 「もうすぐ陛下に会える」  仔空は複雑な思いで玉風の帰りを待った。玉風が無事に帰ってくるかも心配だった。 「お怪我はされていないだろうか……」  玉風のことを思うだけで仔空の胸は張り裂けそうになる。 「そして、陛下はまだ僕のことを好いてくださっているだろうか」  仔空は、後宮へ嫁いだ日以来玉風に会っていない。 「陛下は、まだ私のことを覚えていらっしゃいますか……」  桜の宮の庭園に植えられている桜の木々は、長い期間花を咲かせる品種だと玲玲(リンリン)から聞いた。 「もう一度、一緒に桜が見たいです」  仔空は、未だに満開に咲き誇る桜を見上げながら、玉風の無事を祈ることしかできなかった。  

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