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結ばれた二人④

「やっと終わった……」  女官達に体の隅々まで洗われ、肌触りの良い寝巻に着替え、髪を丁寧に梳かれれば犬の刻を過ぎていた。いつまでたっても慣れないこの一連の流れに、仔空(シア)は大きな溜息をつく。 「子供じゃないんだから、湯浴びくらい1人でできるよ」  閨に焚かれた、恐らく白檀(びゃくだん)の香りであろうお香を仔空はそっと吸い込んだ。 「この寝巻は気持ちいいなぁ」  絹で織られた着物に頬擦りをする。その時行燈に灯された蝋燭が静かに揺れて、誰かが閨に入ってくる気配がした。 「その寝巻がそんなに気に入ったか」 「陛下……」 「約束通り、会いに来たぞ」   トクントクンと、仔空の心臓が跳ね始める。顔が火照るのを感じ、寝巻を握り締めて俯いた。  もう何度も玉風(ユーフォン)と閨を共にしている。しかし毒を飲んで以来体調が優れなかった仔空を気遣って、玉風は抱くことは無かった。  ただ仔空を抱き締めて隣で眠っている。  同じ布団でただ一緒に眠るだけ……。こんなこと今まで体験したことがなかったから、最初はひどく戸惑った。しかしいつの間にか、隣で自分を守るかのように眠る玉風の温もりが心地よく感じるようになっていた。 「体調はどうだ?」  顎を掴まれ、少しだけ強引に上を向かされる。仔空の前には、いつものように自信に満ちた顔で微笑む玉風がいた。 「今日も綺麗な翠色の瞳だな。俺の妃はこんなにも綺麗だ」 「陛下……」  うっとりと目尻を下げる玉風の手を取り、そっと口付けた。 「もう、すっかり元気になりました」 「そうか……なら……」 仔空は覆い被さられるかのように、寝台に押し倒される。 「抱いてもいいか?」  皇帝陛下が自分の行動に許可を取ろうとするなんて、仔空は不思議でならない。 (僕の体調なんかに関係なくお抱きになればいいのに……)  しかしなにより仔空のことを気遣ってくれる玉風の優しさが、泣きたいくらい嬉しかった。今までは、商品として扱われることしかなかったし、鬼神の能力の恩恵にあやかりたい男しか見たことがなかったのだ。 「陛下。恐れながら、私はいつまでたっても雨露期(ヒート期)が来ないのです。だから鬼神(きじん)の能力はありませんし、妊娠もできません」  発情を抑制する薬を飲んでいないにも拘わらず、やはり雨露期が来なかった。 「それでも、よろしいでしょうか?」  仔空は不安になりながらも玉風を見つめる。雨露期の来ない自分に価値はない。それを痛いくらい感じていた。 「ふふっ。馬鹿だなぁ」  うっすらと涙が滲む仔空の目尻に、玉風は口付ける。 「俺は、其方が愛しいから抱きたいのだ」 「陛下……」 「雨露期など、どうでもいい」  蕩けそうな顔で笑う玉風を見れば、仔空の胸に熱いものが込み上げてくる。 「抱いてください、陛下」 「仔空……」 「そして、私を……陛下の物にしてください」 「大切過ぎて、言葉にならないなんてことがあるのだな」 「陛下……私は貧相な坤澤(オメガ)です。ガッカリさせてしまったら、申し訳ありません」  仔空の目頭が熱くなり、目の前の玉風の姿がボンヤリと滲んだ。 「それに私は、お金の為にたくさんの男の人に抱かれてきた汚い体です。だから……むぅ……」  まだまだ玉風に伝えたい事がたくさんあったのに、それは言葉にならなかった。仔空の言葉を遮るかのように唇を奪われてしまったのだ。 「あ、あッ……はぁ、はぁ……」  ねっとりと絡みつくような口付けから解放された仔空は、荒い呼吸を整える。 「馬鹿が。其方は本当に綺麗だ」 「陛下……」 「仔空、来い……」  

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