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第6話

体を洗って、部屋にあった代わりの 使用人用の服に着替える。 汚れてしまった服は自分で洗えるらしい。 夜あたり、洗いに行こうかな。 お昼に使った食堂に行き、 夜ご飯を食べる。 お昼にあった青年はいなかった。 それにしても、たくさんの使用人がいるなぁ。 思わずキョロキョロしてしまう。 食器を片付けて、近くにいたおばさんに 服を洗う場所を教えてもらった。 やっぱり今日、洗いに行こう。 そう思って颯爽と部屋に戻り、 荷物を抱えたところでドアがノックされた。 「は、はーい」 と声をかけてドアを開けると 斎田さんが立っていた。 「あ、もしかして、夜もお仕事ありましたか?」 「いえ、使用人であれば夜時間は何もありません。ただ、今日は旦那様がお呼びでしたので」 「主様が!?えっ…、僕なにかし…」 「いいえ。おそらく、今日の働きのことと 新しい名前が必要でしょうから」 「なるほど。あ、この服のままで大丈夫でしょうか?」 「ええ。しっかり顔の汚れも落ちてますし、 このまま向かいしましょう」 「はい」 そういえば、すすまみれの顔を 斎田さんに笑われたんだった。 恥ずかしさに顔を赤くしながら僕は斎田さんに続いた。 主様の書斎は本館の最上階にあり、 そこに行き着くまでにかなり複雑な ルートを辿ることになった。 斎田さんによると、やはり命を狙われる こともあるので、安全な場所に 部屋があるとのこと。 このくらいの財があればそれもそうなのかもしれない。 豪華で重そうな扉の前で斎田さんが止まる。 ドアを4回ノックすると「入れ」という声が聞こえた。 まだ姿が見えてないのに圧のある声色に僕は少し背筋が凍った。 やっぱり怖い人なのかな… 「新入りを連れて参りました」 そう言って一礼する斎田さんに続いて、 僕も一礼して恐々と部屋に足を運んだ。 すごく広い部屋だ。 家具も光沢があり、どっしりしている。 華美ではないけれども、いい物であることがわかる。 そして部屋の壁一面に本棚が敷き詰められ、 たくさんの本や書類が所狭しと詰め込まれていた。 すごい量だ… 思わずキョロキョロしてしまう。 そして、書斎の机には 主様と思しき人物が頬杖をついて座っていた。 ばちりと目が合う。 黒い髪に黒い目… 斎田さんの目も冷たげではあるけど 主様はより一層冷たく、 有無を言わさない眼力があった。 僕にとって今まで1番怖かった人は 父の後妻…、僕にとっては継母に当たる人で それはそれは手厳しく指導された。 彼女とは全くベクトルの違う 恐怖を覚えた。 「お前…、一条忠嗣じゃないな?」 急に主様に声をかけられ、肩が跳ねる。 「えっと…、忠嗣は僕の兄です」 「兄?一条家は1人息子じゃないのか?」 「えっ…、あ、僕はほぼ使用人として扱われてきたので、社交会にも出たことがなくて… でも、一条の正妻の次男です」 「通りでな。あの忠嗣がたった1日で ノルマをクリアできるわけがないと思ったからな」 僕は、兄だと思われて買われたってこと…?

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