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第45話 「だから、好きだ」

 視線を感じて顔を戻すと、正面から周に見詰められていた。  丁度二個目のバーガーを食べ終えたところみたいで、口の端に付いたソースを舌で舐め取る仕草が妙にエロティックだ。なんなんですかね、この人のスキルは。  口がちょっと大きめだから、かなあ? 余計に扇情的なんだろうか。 「食わねえの?」  半分食べかけで止まっていたのを指摘されて、慌ててかぶりつく。  やばいやばい。あんまり下ばかり見てたら二人のこと気付かれるよ。気をつけなくちゃ。  ふぐふぐ食べている俺を、ポテトを摘まんだりジンジャーエールを飲んだりしながら、じいっと見詰めたままの周。  流石にちょっと……辛いんですが。 「そいや、一緒に飯食ったのって初めてだな」  誤魔化すように言うと「だな」と頷いて、周は塩の付いた指先をぺろりと舐めた。  あ、舌長いかも。 「カズは、いっつも指定席じゃん。流石に近付けねえし」 「周だって、友達と一緒でしょ」 「あ、気にしてくれてたんだ?」  にんまりと笑みを浮かべて、首を傾げて目を覗き込まれる。 「少しは、意識してくれてる?」  ──会って間もない頃にあんなことされたら誰でも意識すると思うんだけどっ。 「う……意識というか、構えては、いる」 「今度もまた何かされないかって?」 「う、ん。──ごめん」 「なんでそこで謝んの。それが普通だろ。ホント優しいな、カズ」  周が苦笑して、少しトーンを落とす。 「だから、好きだ」  店内は空席がないほど混んでいる訳じゃない。けど、音楽も掛かっていて程よい喧騒に包まれていて。  それでも、俺の耳に確かに届いた。囁くような声。 「俺と同じ意味で、好きになって欲しい」  焦げ茶の少ない黒い瞳が、食い入るように俺の顔を見詰めていて。まるでその奥の深い闇に捕らわれたように、身動きが出来なくなる。  人生で初めての告白をされました──しかも男に。  待て待て待て待て。俺は、男だ。男だよな? ちょっと不安になったけど間違いない。  周の方も誰が見ても間違いなく男だ。性別偽って男子寮には入れねえしな?  そもそも周は男って判っていて、あんなことしてきたんだもんな?  あれはまあふざけ半分だったとしても。その後は警戒するほどには近付いてこなくて拍子抜けした感もあるけど。  それって……それって──。 「信用できねえか……だよな。今まで、体を繋げることしか興味なかったからさ、正直どういう手順を踏んだらいいのか判んねえんだ」  少し癖のある黒髪が顔に掛かるのを手櫛でかき上げながら俺を見る瞳が揺れて、ようやく呪縛が解けた。  でも、なんて相槌を打ったらいいのかも分からない。曖昧に顎を引いて、黙って残りのバーガーを食べた。 「なかなか話せる機会もないから、こんなトコでこんな話になっちまってごめん。でも、カズだって俺のこと嫌いじゃねえだろ?」 「うん……嫌いだったら、なんとしてでも断ってる」  それは本当だった。前に周に言った通り、友達でいたいしもっと色んな遊びを教えながら仲良くやっていきたい。 「でも、」 「いい」と周が手を上げて制した。 「ノンケのお前の気持ち、何となく判ってるから。だけど……お前が本気で嫌がるようなことはしねえから、避けるのだけは勘弁な? 他の連れと同じようにでいいから、付き合ってくれる?」  有りか無しかの二択にしたら、切り捨てるしかない。そんな気持ちを、周は俺に抱いてる──だから。  その感情は周だけのもので、俺から向ける感情は全く別のもので構わないから、傍に居たいって……そういう意思表示をしてて。  そういうの、凄くはっきりしてて、男らしくて、素直に凄いなと思った。 「うん」  頷いて、炭酸入りの果汁をストローで思い切り吸い込んだ。

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