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囚愛Ⅲ《エリックside》5

「雅様、いけません。ベッドで寝てください。体が休まりません」 「今日ダンス凄く疲れたからさ…動けないんだ。そうだエリック、マッサージして。昔みたいにさ」 そういえば日本にいた頃もボディクリームで雅様のマッサージをよくしていたことを思い出した。 私は部屋へ戻り、愛用しているボディクリームの新品を手に取り雅様の元へと戻った。 「どこが辛いですか?」 「ふくらはぎ…パンパンだと思う。あとハンドマッサージもして。あれ好き」 「かしこまりました」 先ほどからずっとお互い日本語で会話しているのに違和感などなく。 蓋を開けて、クリームを手に取り雅様の脚にそれを滑らせる。 張っている脚をマッサージされながら、雅様は私がいなくなった間の出来事を話し始めた。 「そういえば竜がさ…ハルカさんと結婚してたんだよ」 「竜が?いつですか?」 「高3の8月…卒業するまで内緒にされててさ…俺学生時代、人妻が同級生だったんだーって驚いたよ」 「JEESも人気になりましたし、公表のタイミングが難しいですね」 「同棲婚は日本じゃまだ偏見もあるしね。でも竜は凄く幸せそうだよ。嵐も遠距離の先輩が日本に戻ってくるって―…」 それから雅様の学生時代の親友の話しを聞き、日本時代を思い出しながらマッサージを続けた。 私がいなくなってからの大学生活なども教えてくれて、今はドイツ語も専攻しているそうだ。 分からなかったらテリーに課題をやってもらえるから専攻したと笑いながら言う。 「それでは私たちのドイツ語が聞き取れていましたか?」 「いや、無理だった。早すぎて」 「“私たちの会話が聞き取れていましたか?”」 「“ごめん…もっとゆっくり”」 精一杯のドイツ語で返事をする雅様。 「“私たちの…、会話が…、聞き取れて…、いましたか?”」 「“聞き取れませんでしたエリック先生”」 お互いそんなふざけた会話をして笑い合って。 これだけでも楽しく、幸せを感じる。 だからあなたがアメリカにいる残りの数日間だけは、今までの私たちのような距離でありたい。 ―…あなたにはもう恋人がいるのだから 「このボディクリーム懐かしい…いい匂い…また寝そう…ねぇエリック…手…貸して」 しばらくしてハンドマッサージをしている途中で、雅様がそう言ったので私は手を差し出した。 そして雅様はその手を取り、自分の唇へ引き寄せて、私の手の甲にゆっくりとキスをした。 そして唇を離して私を見つめて微笑む。 「マッサージのお礼…ありがとうエリック」 私は驚いてその手を放すと、雅様の腕は重力に逆らえずソファーの下へと落ちた。 それと同時に寝息が聞こえた。 心臓の鼓動が速くなる。 触っていないのに自分の顔が熱いのも分かる。 「《お、雅様寝たのか?》」 背後からテリーの声がし、振り返るとバスルームから上がってきたテリーが私たちの元へ近付いてきた。 「《あぁ、テリー。すまないが、雅様を部屋まで運んでやってくれ。ここでは体が休まらない》」 「《細いのに重いんだよなぁ雅様…筋肉量がすごいんだよ。俺のトレーニングにもついてくるし若いってすごいよなぁ》」 「“いいから運べ”」 「“―…いつ聞いても怖いなお前のドイツ語は”」 そう言いながら、テリーは軽々と雅様を持ち上げた。 私も部屋まで付いていき、ドアを開けると部屋に1歩足を踏み入れたテリーがニヤリとしながら言う。 「《雅様をベッドまで運んだら、俺にもマッサージしてくれよエリック》」 ―…こいつ、どこから見てたんだ 「“おやすみテリー”」 そう言って私も自分の部屋へと戻った。 雅様に触れたのは、触れられたのはいつぶりだったのだろうか。 たった数分の出来事なのに、心が満たされる。 気付くと私は先ほど雅様にキスをされた手の甲に自分の唇を重ねていた。 こんな間接キスでさえ幸せだと思ってしまうなんて。 まるで少年のようだなと自分で自分を笑いながら眠りについた。 翌日から雅様を意識し始めてしまった。 「おはよう、エリック」 コーヒーカップを持ち、背後から私の耳元で挨拶をする雅様。 ―…これだけで欲情してしまう それと同時に、やはりこんな気持ちでアルを待たせてしまうのは申し訳ないと思った。 講義が終了してから二人きりで食事をしたいと誘い、プロポーズを断ることにした。 「“アル…プロポーズは…断る…”」 「“そう…それでも僕はずっとエリックを変わらず愛してるから”」 「“すまない…”」 「“エリックは雅のことが好きなの?”」 私の驚いた反応で悟ったのか、アルは私の両手を手に取り、真剣な表情をして見つめて言う。 「“ねぇ…僕じゃ敵わない?”」 「“すまない…アル…私は…”」 忘れられたと思っていた。 でもやはり私は、 「“でも彼は左手の薬指に指輪をしているよ?だから君たちが結ばれることはない。僕はいつまでも待ってるから”」 もう雅様以外愛せないから。 雅様以外を愛したくないから。 「“雅様が幸せならそれでいいんだ”」   その日、時間をかけてアルのプロポーズを断った。

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