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第48話

 しんと静まり返る、いつものオンボロアパートの四畳半のワンルーム。  颯はベッドの横、床に横になって倒れたっきりだ。  仕事に行きたくない。食欲もない。何もしたくない。こんな人生さっさと終わらせたい。  そう思っているのに、ヒート四日目のオメガの身体が夜になって疼き出した。 「諒大さん……助けて……」  そんなことを言っても諒大はここにいない。わかっているのに、その名前を呼びたくて仕方がなかった。この三日間、苦しくなるたびに何度もその名前を呼んだから。  そうすると諒大は寝ていても、何をしていてもすぐに飛んで来て颯を抱きしめて、気持ちよくしてくれた。  でも、もうそんなことはしてもらえない。なんとか自分で身体の熱を収めなければ。 (そうだ!)  颯は床に落ちていたスマホを拾う。この中には諒大の声が入っている。毎晩、寝る前に聞いていた『颯さん、おやすみなさい』が。  それで諒大の声を聞いて、自慰すればなんとかなるかもしれない。 「あれ……?」  いつもの慣れた操作で音声を再生しようとしたら、それがあるべきところにそれが表示されない。  どうしてなくなってしまったのかと検索して知った。 (これ、保存しなかったら消えちゃうの……?)  ボイスメッセージなんて機能を使ったことがなくて知らなかった。送られてから保存しておかないと一定期間が過ぎたあと、消えてしまうらしい。 「諒大さんの声が聞けなくなっちゃった……」  諒大からもらった、颯の一番の宝物がなくなってしまった。こんな初歩的なミスで、大事なものを失うなんて。 「諒大さん……名前を呼んでよ……」  スマホのSNSの画面を何度もタップして、無機質な画面に向かって訴えてみる。でも、消えてしまったものは取り戻せない。 「はぁっ、苦し……っ!」  身体がだんだん熱くなってきた。颯はベッドの布団に潜り込み、自らの手でヒートを収めようとする。  自慰するとき、諒大を思い浮かべる。昨日の今日のことだからまだ諒大の感覚を思い出せるはずだと颯は必死で諒大との記憶を呼び起こす。  諒大の大きな手で身体を弄られ、諒大の唇が颯の唇に重ねられる。普段は優しいのに、諒大のキスはすごく情熱的だ。  互いの舌を絡めて、アルファの甘い甘い唾液を味わう。ヒートの身体にアルファの体液はたまらなくて、颯は諒大とのキスをやめられない。 「諒大さん、触って……」  諒大はいないから、颯は自分の手で下半身に手を伸ばす。  諒大の手が颯の屹立を呑み込み、気持ちよくなるように上下に扱いてくれる。颯の白濁を手で受け止めてくれたあと、颯の疼いて仕方のない後孔を指でクチュクチュと——。 「あっ、あっ、りょーた、りょーたさ……」  颯は諒大とのことを思い出しながら、ひと晩中、身悶えていた。

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