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24、思い出の星空 ②

「目の前にいるのは誰?Say(言って)」 「よ…ようすけ…」 「Good Boy(いい子だね)」 目の前の大きな身体が俺を褒めて、それから俺の身体を包み込んだ。その身体の温かさに、さっきまでの恐怖も不安も絶望も、全部一瞬で消え去ってしまった。 「怖かったよね、ごめん…」 「うん…怖かった…」 「晴兄、昔から平気そうなフリして、暗いところも狭くて不気味なところも大嫌いだったもんね」 「気付いてたのか」 「一生懸命俺のお兄ちゃんしてくれてたから、黙ってたんだ」 陽介は申し訳なさそうに眉を下げて、見るからに落ち込んでいた。その顔は悪戯がバレた犬みたいで、こんな状況にも関わらずほっこりしてしまった。 「ここどこ?どうしてこんなところで寝てたんだ?」 「晴兄は覚えてない?この先の丘でよく星を見たの」 陽介と星を見た場所なんて1箇所しかない。だけど、こんなに暗い場所を通ってきていただろうか。  本当にこの場所なのか、俺には自信が持てなかった。 「そっか…覚えてないか…」 自信が持てずに俺が黙っていると、陽介は俺が忘れていると思ったらしく、さらに落ち込んでしまった。  ちゃんと覚えているし、悲しい顔をしないでほしい。  俺は下を向いた陽介の顔を持ち上げて、俺の方を向かせて応えた。 「覚えてるよ!星を見に山に入ったのは覚えてるけど…でも通り道ってこんな暗かったか?」 陽介は俺の疑問を聞いて、何かに気付いたようにハッとした顔をした。 「あ、そっか…ここ俺が見つけた近道だった。晴兄は街灯の多い道を選んでたから、知らなわけだよね。良かった、晴兄も覚えててくれて」 安堵したように陽介はそう言って、陽介の顔を持つ俺の手の上に自分の手を重ねてきた。  その手は泥まみれで、少し冷えていた。 「温かい…晴兄の手、温かいね」 「陽介の手は少し冷たいな」 「ねぇ、星見に行ってもいい?」 「もちろん」 陽介は当たり前のように俺を背負い、階段を登り始めた。  学校からここまで俺を背負って来たから、陽介はあんな階段のところで力尽きてしまったのだろうに、それでも、ふらふらでも、腰の抜けた俺を背負ってくれている。  少ししたら俺だって歩けたのに、それでも俺を「こんな暗いところにずっといさせられない」と頑張ってくれた。  その優しくて大きな背中に、俺の心臓は痛いほど鼓動した。俺はそれが何故か恥ずかしくて、誤魔化すかのように昔の話をした。 「昔は俺が背負ってたのにな」 「そうだっけ?そんな恥ずかしいことされた覚えないけど」 「覚えてないのかよ…しかも俺この状況が恥ずかしいみたいな言い方しやがって」 自分は俺が覚えてなかったって、勘違いして落ち込んだくせに。俺だって忘れられたら悲しいっての。  平然と「覚えてない」と言う陽介に寂しくなり、その気持ちを振り切るように俺は思い切り陽介にしがみついた。  その行動に俺が寂しく思ったと気付いたのか、陽介は笑いながら弁明してきた。 「あはは、ウソウソ、覚えてるよ。嬉しかったしね」 「嫌な嘘吐くなよ…」 「でも、ちょっとだけ子供だった自分を恥ずかしく思うから、できれば忘れていてほしかったかな」 陽介は恥ずかしそうに呟いた。よく見ると、耳が真っ赤になっていた。  「おんぶ」なんて子供の特権だと思っていたから、恥ずかしく思うことなんて1つもないと思う。  でもそうやって子供の頃の自分を恥ずかしく思えることが、俺にとっては少し羨ましかった。  そんな懐かしい話に花を咲かせていると、あっという間に階段を登り切っていた。 「やっっと着いたー…」 相当疲れていたのだろう、陽介は登り切った瞬間その場に倒れてしまった。

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