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2 挑発とグルゴーファ3

 そしてようやくこぎつけた初デート、一輝は車で菅原家の門前にやってきた。  書かれていた注意事項に、公共交通機関の使用禁止が書かれていた。碧は自分の身体が弱いと言っていたが、別の理由がありそうだ。  事前に知らせた車両番号で一輝の来訪に気づいたのだろう、車を横付けただけでゲートが開いた。  さすが老舗製薬会社の創業者一族の邸宅だ、都内だというのに広い敷地を有しており、車で玄関まで乗り入れる形になっている。  一輝の実家とどちらが大きいか。  玄関まで車で向かい、出迎えた執事に鍵を渡した。 「天羽様、ようこそおいでくださいました。碧様の準備が整うまでこちらでお待ちください」  案内され、リビングに通される。  だが、そこには一番会いたくない人物がいた。  菅原家の長子、(げん)だ。 「よく来たな、天羽」  喋り方が刺々しい。それもそうだ。中学からずっと一緒のアルファ学校に通い、しかも大学までずっと一緒だった玄は、一輝の交際関係すべてを把握している。当然その性格も。  ずっと優等生で学級委員だけでなく生徒会長まで務めた玄に反して、一輝はあまり品行方正とは言い難い学生生活を送っていた。 (そうだ、こいつは確かに菅原製薬の御曹司だった……)  若気の至りを一部始終知っている相手が気になる子の兄である事実に、ようやく気付いた一輝は、内心冷や汗をかきながら営業で培った笑顔をその面に貼り付ける。 「久しぶりだね、菅原くん」  真面目一辺倒の玄は一輝の笑顔に表情を変えず、むしろ鼻で笑った。 「お前に話がある」  もしやこの見合いを断れとでも言うのだろうか。  確かに学生時代はちょっと……いや、かなり派手に遊び歩いていたし、言い寄ってくる者は性別もバースも関係なく美味しくいただいていた。それは認めよう。恋人がいてもちょっとつまみ食いなどしていたのも確かだ。しかもそれを男子校だったのをいいことに面白おかしく喋ってしまったりもしていた。それほどアルファが多くないせいか、アルファ校にいる間ずっと同じクラスだった玄が聞きかじっていたとしてもおかしくはない。  だが社会人になってからの数年はかなり品行方正な性生活を送っている、はずだ。  一体どんな話だろう。  穏やかに微笑む表情を全く変えず、だがかなり緊張しながら玄の前に座る。  心の情景としては蛇に睨まれた蛙である。 「見合いの作法通りに交際を申し込んできたということは随分と碧を気に入ったようだが、あの子は我が家の宝だ。お前が今までしていたような適当な付き合いをされては困る」

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