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6 部屋とワイシャツと膝枕3

 自分のせいで碧が誰かに酷いことを言われるのは嫌だ。そのために今の仕事をやり通さなければ。  碧には他人の評価など気にしないと言ったが、彼が他者から嫌味を言われるのは我慢ならない。それが自分の言動や態度ゆえなら尚のことだ。だから碧があそこまで言うのだろう。一輝のことを想ってくれるのが嬉しい反面、己を卑下して欲しくないと強く思ってしまう。  碧はアルファとは違った美しさを持っているのに、全く気付いていない。  自分のものにしてから気付かせればいいと考えてしまう一輝はきっと卑劣でズルいのだろう。純真無垢な碧といると、それだけで心が洗われ、彼のために頑張ろうという気持ちにさせてくれる。  きっとそれが碧の価値なのだ。 「あげまんというやつか?」  仕事の合間にぼそりと呟いてしまう。  碧との関係が良好であればあるほどなぜか仕事がはかどっていく。  これが世に言うあげまんなのかと訝しみながらもじゃんじゃん仕事をこなし、とにかくノルマ以上の結果を出して菅原家の面々をギャフン(死語)と言わせてやりたい、そして碧との結婚を認めさせたい一心で頑張り続けた。  今の一輝の目標は結婚ただそれのみになっていた。  不思議なものだ。  彼と出会うまではどうせ家同士の結び付き、アルファ結婚で試験管ベイビーをこさえられれば、あとは変わらず遊びのような恋愛を繰り返して人生を終わらせようと思っていたのに。  今はなにがなんでも碧と結婚して彼を存分に可愛がりたいと切望している。  幸い、部下が着いてきて支社の営業部員も頑張ってくれたおかげでノルマの達成が見込まれている。きっと半期決算は過去最高を記録することだろう。  このまま何事もなく進むことを祈りながら、毎日を過ごしていた。  だがさすがにもう若くない体力が邪魔をしていく。  せっかくの休日だというのに、せっかくの碧とのデートだというのに、その日は目の下にクマを作りながらの参加だった。  車に乗り込んできた碧はすぐに一輝の不調に気づき、どうしたのかと訊ねてきた。 「最近仕事が忙しくてね」  はぐらかそうとハンドルを握る。夏の日差しが強くなってきた昨今、オープンにせず車内のエアコンをガンガンにかける。それでなんとか運転できる状態を保ち、車を走らせようとした。 「今日はどこに行く予定なんですか?」  珍しく行先を訪ねてきた。最近は一輝が決めて碧を驚かせるのが定番となっているのに。 「天気もいいし、箱根で美術館巡りをしようと思っているよ」 「それ今度にしましょう。一輝さんのお仕事が忙しくないときでいいです!」 「大丈夫だよ、碧くん。せっかくのデートの日なんだから……」 「だめです! ……一輝さん凄く疲れてます。今日は一日お休みしたほうがいいです」

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