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真っ白な部屋

目覚めの朝。 昨夜はいろんな出来事が立て続けに起こったせいで、もしかしたら私の願望が見せた夢だったのではないかとさえ思えた。 だが、起き抜けの目に飛び込んできたのはレンが描いてくれた美しいパドマ。 それが夢でないと教えてくれる。 燃えるような赤いパドマに私の心も一気に高揚する。 ああ、私はようやくレンを伴侶に迎えるのだ。 レンとあの湖で出会ってから、それほど時が経ったわけではない。 だが、私にとってこの数日は、成人を迎えてからレンと出会うまでの日数よりもずっとずっと長く感じられた。 ようやく私の腕の中に来てくれた。 あまりの愛おしさに抱き締めると、腕の中のレンが身動ぎ私の胸に顔を擦り寄せながらあどけない寝顔を見せる。 ああ、可愛いすぎる。 これが本当に21歳なのかと思ってしまうほどだ。 まぁ、それもそのはず。 レンは色事に関しては知識を持っていなかったのだから。 レンの唇の柔らかさも可愛らしい声も、そしてあの感じやすい身体も全て私しか知らないのだ。 その事実が私を喜ばせる。 レンのいた世界で、大勢と入るのが普通なのだと言っていた浴場で、レンを一人だけで入らせてくれていたあの老女のことを思い出す。 あの老女にどうにかして褒美を与えることはできないだろうか……。 それくらい、あの老女には感謝しても仕切れない。 「うーん」 可愛らしい声をあげ、レンの目がゆっくりと開き私の姿を捉えた。 「……んっ? えっ、あ――っ」 一瞬で昨夜のことを思い出したのか、一気にレンの顔が赤くなり私の身体で顔を隠す。 ふふっ。そんな可愛らしい仕草がより一層私を興奮させることを知らないのだろうな。 「レン……可愛い顔を隠さないで見せてくれ。朝の挨拶がまだだぞ」 「あっ、そうだ……」 素直なレンはゆっくりと顔をあげ私を見つめる。 少し潤んだ瞳が欲情を唆る。 だが、無事に式を終えるまでの我慢だ。 愚息を必死に抑えながら、 「レン、おはよう」 ととびきりの笑顔を見せた。 「――っ、ルーファスさん。おはよう、ございます……」 「昨夜は寒くなかったか?」 「はい。ルーファスさんがずっと抱きしめていてくれたのでぐっすり眠れました」 「そうか、ならよかった」 「僕……ルーファスさんと一緒じゃないと、もう眠れないみたいです」 「――っ、そうなのか?」 「だって、ルーファスさん……おっきなぬいぐるみみたいであったかくて安心するから……」 照れながらもそう言ってくれるレンをこのままベッドに押し倒したい衝動をグッと抑えた。 「もうこれから離れて寝る日など一日もないから、安心していいよ」 「絶対ですよ」 「――っ!!!」 にっこりと微笑むレンに私の頬が赤く染まる。 さっきまで恥ずかしそうに顔を隠していたというのに。 揶揄うつもりの私が逆に揶揄われている気がする。 きっと私は一生レンには勝てないのだろうな……。 <side月坂蓮> 「そろそろ式の支度をしよう」 身支度を整え、食事を終えてしばらく休んでいると、ルーファスさんが嬉しそうに立ち上がった。 てっきり寝室に行くのかと思ったら、僕を抱きかかえたまま部屋をでた。 「陛下。レンさま。お供いたします」 いつから待っていてくれたのか、扉の前に立っていたレナルドさんと一緒にルーファスさんはスタスタと廊下を進んでいく。 あっ、ここから先に行くのは初めてだ。 少し空気の変わった不思議な感覚を味わいながら緊張していると、 「レン、いつも通りでいればいいから」 と優しい声をかけられる。 その声に気持ちを落ち着かせながらも初めての場所に緊張はすぐには消えそうになかった。 「陛下。レンさま。中にお入りになり、お召し物をお着替えください」 レナルドさんに案内され、ルーファスさんと二人っきりで入った部屋は真っ白な壁に囲まれた、必要なもの以外何も置かれていないというほど殺風景な部屋だった。 だけど、なんとなくホッとする。 豪華な調度品や絵などで装飾された部屋は確かに美しいと思うけれど、やはり僕は日本人だからか、何もないということに美しさを感じてしまうんだ。 そう、心が洗われるようなそんな気がしてくる。 「レン、これが婚礼衣装だ。私が着替えを手伝おう」 ルーファスさんが手にしていたのは、幾重にも重ねられた真っ白な布。 まるで十二単が全て白色で構成されたような、そんな美しい織物。 僕の内面まで透き通って見えそうなくらい白い衣装にドキドキする。 下着も全て脱ぎ、その白い衣装だけを身につける。 もしかして……と一瞬思ってしまったけれど、幾重にも重ねられているおかげで裸が見えてしまうことはないみたいでホッとする。 「レン、私の着替えも手伝ってくれ」 僕と同じように裸になったルーファスさんが、僕が手伝いやすいようにと膝立ちになってくれた。 お互いに着替えさせ合うというのも楽しいものなんだなと初めて気づいた。 「さぁ、神殿に向かおう。神殿長が我々が行くのを待っているからな」 神殿って、日本でいう神社のようなものなのかな? そこにいる人は神の使いのようなもの? その人に、ルーファスさんへの一生の愛を誓うのかな? わぁ、なんかドキドキが止まらなくなってきた。 「レン、転んだら危ないからな」 ルーファスさんにそっと抱きかかえられ、僕たちは神殿への扉を開けた。

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