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いらっしゃいませ、ご主人様!③

 カチリと音が鳴った後で眼前で突然火が灯り、リュカはびくりと体をこわばらせた。 「金持ちの変態ども相手に、尻の穴でも使って稼がせるか。稼げなくなったら臓器でも売っぱらっちまえばいい」  吸い込んだ煙をリュカの顔に吐き出して、男はニヤリと嫌な笑いを浮かべた。 「とりあえず、事務所連れてくぞ」  そう言うと、眼鏡の男は扉を開けて、金髪の男もリュカの体を取り押さえたままその後に続く。 さっきは確認できなかったが、戸を開けるとすぐに外気に面した廊下になっていて、視線はやや高い。しかし、隣にも汚らしい建物が密集しており、やはりここは牢獄なのかとリュカは思った。  リュカは逃れようと身じろぎするが、大人しくしろと首に腕を回され軽く絞められた。  引きずられるように、やたらと音がうるさい鉄骨階段を降りていく。  その先には黒い機械が停められていた。  当然、リュカはそれが何か知らない。タイヤをつけた形状から馬車の客車なのだろうと考えたが、しかし馬が見当たらない。  ここはおそらくウェール王国ではない。  あの汚らしい部屋や、今目に映る建物、ならず者達の服装を見るに、祖国とは全く違う文化が根付いた地であることは間違いない。泉に落ちて気を失っているうちに、誰かに連れ去られ、あの牢獄に閉じ込められていたところを、またコイツらに連れ去られそうになっているのだろうか、とリュカは考えを巡らせた。  眼鏡の男は先に助手席に乗り込み、柄シャツの男が後部座席の扉を開く。  そしてリュカの体を押し込もうと、首に回していた手を緩めた。  その一瞬の隙をついて、リュカは膝を折って体を屈め、男の懐からすり抜けた。  男は慌ててリュカの体に手を伸ばすが、その手がリュカを掴むより、リュカが男の股間を蹴り上げる方が早かった。 「グェッ!」  男が呻き、股間を押さえて地面に膝をつく。  同じ男であるリュカは、その痛みを想像して一瞬顔を歪めたが、同情している余地はない。すぐさま体の向きを変えて走り出した。 「くそっ! 何してんだ!」 「グッ……イテェ……タマ、蹴られて……」 「雑魚が! さっさと追いかけろ!」  背後で男達の声がする。振り返る余裕もなく、リュカは必死に見覚えのない道を走り続けた。

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