19 / 101
karma②
「あー、やっぱ、karma 最高だわ」
「ね、あのミライちゃんのコーラスとユージンの歌声の絶妙なバランスたるや……」
「やばいよね、まじで情緒によっては泣いてまうわ」
「いや、もはや私泣いてたよ今日」
「わかりみー」
ステージが終了し、リュカはライブの感想を交わす人並みに押されるようにして、またライブハウスの外にいた。
しかしどうしても離れがたく、その入り口を彷徨いている。
周囲には同じように中にいた観客であろう人たちが数名周囲で屯していた。会場内には男性もいたが、待っているのはほとんどが女性で、その手にバッグの他には紙袋を下げている。
「お兄さんも出待ちですか?」
所在なさげにしていたリュカに、まだライブの興奮冷めやらない様子の3人組の若い女性が声をかけてきた。
先ほどのメイドよりは清潔感のある姿をしているが、全員少し露出が高い。この国はそういう文化なのかもしれないとリュカは思った。
「出待ち……とはなんだ?」
リュカは眉を寄せ、女性に尋ねた。
「出てくるの待ってるんですか?」
そう言って、女性の一人がライブハウスの入り口を指差した。
リュカはその仕草に目を見開いた。
「出てくる、とは、さっきの楽団のことか?!」
前のめりのリュカに女性らは少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔を作って顔を見合わせた。どうやらリュカのことを日本語に不慣れな旅行者だとでも思ったらしく、ロックバンドのことを「楽団」と表現したことがおもしろかったようだ。
「はい、karma のことです」
女性は言った。リュカは彼女の言葉を聞いて、karmaというのが先ほどステージで演奏していた彼らのことだと理解した。
「お兄さん、karmaのファンなんですか?」
もう一人の女性がリュカに尋ねる。
「ファン……いや、今日……初めて聴いた……」
「えっ! そうなんですか? どうでした⁈」
どこか茫然としたリュカに女性たちは尋ねる。
リュカはライブハウスの入り口を見つめ、少し前の衝撃を頭に浮かべた。体全体を彼らの音に包み込まれた感覚を思い出すと、またあの瞬間に戻りたいとさえ思う。
「素晴らしかった……」
呟くようにリュカが言うと、何故かその女性達が嬉しそうに体を弾ませ笑いあっている。
「やっぱり、karmaの魅力はインターナショナルだ!」
「あぁ〜もっと売れて欲しいけど、チケット取れなくなるのは辛いー」
「それな! 応援したいけど、このままこの辺で燻ってくれてた方がチケットは取りやすいしで、複雑な心境!」
ところどころ意味不明な言動をする彼女たちを尻目に、リュカはまだ荒く脈打つ胸元を抑えていた。
ともだちにシェアしよう!