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王子の運命②

意識を失ったわけではなかったが、ソファに倒れ込んだまま、リュカはぼんやりとユージンの後ろ姿を眺めていた。  ここはユージンの住むマンションの部屋だそうだ。  リビングの脇の引き戸の向こうに寝室がある間取りで、多少物が雑然としているが、リュカが最初に目覚めたよりは広さも清潔さも随分まともだった。  リュカが横たわっているリビングとユージンのいるキッチンダイニングは一続きになっている。  ユージンはそこで何やら拵えて、今それをリュカの前にあるローテーブルの上に置いたところだった。  リュカは匂いに釣られて起き上がる。ソファの上に座って見下ろすのは、何やら紙の蓋のついた器だった。蓋の上に棒が二本が乗せられているが、リュカはそれを手に取り首を傾げた。 「ああ、箸つかえねぇのか、ちょっと待ってろ」  もう一つ、紙のついた器をテーブルに置いたユージンはそう言って一度キッチンに戻るとフォークを持って戻ってきた。  リュカはそれを受け取ると、今度は蓋の閉じた器を見下ろし首を傾げた。 「飯もらっといて文句言うなよな」  ユージンは言いながら、リュカの向かいにクッションを引き寄せその上にあぐらをかいた。そして箸を手にして紙の蓋を剥がした。  湯気がたちのぼり香ばしいスープの香りがリュカの鼻にも届いている。ユージンは箸で器用に麺を摘み上げると、ずるずると啜ってスープを飲んだ。  リュカはそれを観察し、フォークを握り直しながら、ユージンと同じようにソファから床に座り直した。 「これは、なんだ」 「は?」 「この食べ物はなんだ?」  ユージンはリュカの問いに眉を寄せ、口いっぱいに詰め込んだ麺を咀嚼しながら、透明な容器の蓋を捻ってお茶を流し込んだ。 「え、食ったことないの、カップ麺」 「カップ麺……」  リュカはその名を呟いた。ユージンはまた二本の棒を握り麺を啜っている。  リュカはやっと蓋に手を伸ばし、ユージンのしていたのを真似てペリペリと蓋を剥がした。そしてフォークで少量の麺を掬い上げて巻きつけると、くんくん匂いを嗅いでから恐る恐る口の中に入れた。  ユージンは咀嚼しながらリュカの未知との遭遇の一部始終を観察している。  麺を口に含んだリュカは、急に勢いよく目を見開いた。 「こ……これはっ!」 「なんだよ、美味いだろ?」  ユージンの問いにリュカはカップ麺から顔を上げた。 「なんて下品な味なんだ!」 「おまえな……」  しかしリュカはさっきより多くの麺を掬って持ち上げると、たどたどしく手繰り寄せるように口に含んでいった。 「ぐっ、しょっぱい!」  そう言いながらも飲み込むと、また麺を持ち上げ口に運んでいく。 「油分もすごいなっ……」  さらにそう言って、麺を食べるリュカを見ながら、ユージンはゆっくり箸を置いた。  テーブルの端に置いていたティッシュボックスに手を伸ばしそれを数枚引き抜くとユージンは腰を浮かせ、目の前で必死にカップ麺を咀嚼するリュカの目元に押し当てる。  リュカは鼻を啜り、フォークを握るのとは反対の手でそのティッシュを受け取ると、目元を拭ってテーブルの上に投げ置いた。  結局リュカは必死に麺を口の中にかき込んで、しょっぱいと散々文句を言いながら、スープの最後の一滴まで残さず全て平らげていた。

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