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再会①

           ◇ ユージンがスマホで調べたネットニュースでは詳細な場所までは掲載されていなかった。しかし、ミライからのアドバイスを参考に、ユージンがSNSを検索するといくつかの手掛かりが見つかったようだ。 『近所のアパート燃えとる やば』 『火事で全焼したアパート、二人行方不明だって』 『昨日、消防車と救急車うるさいなと思ったら、三丁目のアパート燃えたんか』  そのうちの一つの動画に近所のスーパーの店舗名が映り込んでいたらしく、それを頼りにユージンが検索をすると、おおよその場所を絞り込むことができた。  一応都心部に位置する場所ではあるが、このエリアは少し駅から遠く、また古いアパートやら戸建てが多くて「某区のスラム街」などと揶揄されている場所らしい。  そのエリアをしばらく探すと、一角だけ黒く燃えつき、形を失いかけた建物に「立ち入り禁止」と書かれた黄色いテープが貼られていた。 「ここか、おまえんち」 「違う。僕の家ではないと言っているだろう」  ユージンの冗談めかした言葉にリュカは眉を寄せた。  この場所はリュカがこちらの世界に来て最初に目覚めた場所だ。  乱暴な男たちに連れ去られそうになり、着の身着のまま逃れてきたが、少しでもこちらに来た経緯や元の世界に戻るための手掛かりがあるとすればこの場所だろう。  リュカとユージンは連れ立って、暗く燻んだアパートの中を覗き込んだ。  ニュースによると事件性はなく、一階の住人の失火が原因だと報じられていた。そのためか、すでに警備の警察官の姿もない。  リュカが黄色いテープを前に躊躇っていると、ユージンは一歩後ろに下がって、首を左右に向けて辺りの様子を伺った。  しみたれた昼間の住宅街に人気はなく、それを確かめたユージンは黄色いテープを持ち上げると頭を低くしながら敷地の中へと潜り込んだ。 「いいのか、ユージン」 「しっ! 名前呼ぶなって」  言いながら、ユージンは黄色いテープを持ち上げて、リュカに手招きをした。  少し躊躇ったリュカだったが、すぐに促されるまま黄色いテープをくぐり敷地内に足を踏み入れた。  すぐ隣にある建物とはブロック塀で隔たれていて、剥き出しの鉄骨階段の下の部分が一階だ。  昼間だと言うのに薄暗いのは建物が黒く煤けているからと言うだけではなく、その場所にほとんど光が差し込まないほど狭苦しい通路だからだろう。 「オマエの部屋どこ?」 「だから、僕の部屋ではないと言っているだろ……二階の一番奥だ」  リュカの答えにユージンは「二階か……」と少し渋い顔をしながら煤けた鉄骨階段を見上げた。恐る恐るスニーカーの裏で一段目を踏み締めて強度を確かめているようだった。  軋む音は鳴るものの、人が登ることはできそうだ。ユージンは先立って2階へと登り、リュカもそれに続いた。  部屋の扉は開けられていた。リュカが連れ出された時のままなのだろう。 「今時こんな昭和な作りのアパートあるんだな」  呟きながらユージンが中を覗き込む。キッチンのすぐ脇にギリギリ人が一人たてるほどの玄関があり、そこから室内のほとんどを見渡すことができた。  焼け落ちたのか、床には大量の煤けた天井材が落ちている。  出火元から一番遠い位置だったにしろ、建物の損傷は激しく、窓ガラスも割れていて、何も見つかりそうにないというのが二人の抱いた共通の感想だった。   「一応、奥まで見てみるか……」  ユージンはリュカに向けてそう言うと、ゆっくりと玄関框に靴のまま足を乗せた。  その時だった。 「何してるんすか!」  アパートの外から声がしたのだ。  おそらく鉄骨階段の下からこちらに向けられただろうその声に、リュカもユージンも肩を揺らした。  

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