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ep.21 優雅なティータイム②

「おおぅ、カナ、記憶が戻ってきたんだね。良かったね。とすると、アルの推測は当たりかな」 「多分、当たってると思う。全部、俺の魔力が鍵になっているんだ」  「封印を解くのがカナデでなければいけない」理由は、本人たちの封印と共にカナデの一部が封印されているからだと、アルバートは解釈していた。 『恐らく、俺と一緒に封印されていたのはカナの魔力だ。他の奴の封印を解いた時に失くしていた何かが戻ったら、この推測は当たっていると確信していい』  封印されていた本人だからこそ感じるものだと話していたが、まさにアルバートの推測は大当たりだった。 「キルも俺の一部と一緒に封印されている可能性が高いよな。そもそも、どこにいるのかもわからないけど」 「多分、精霊の里にいる。俺が王都を離れてリューシャルト地方に来た理由は、それじゃないかと思う」  ジンジルの言葉に、マイラが疑問を投げた。 「でも、ジルはカナを探していたんだよね? キルも動き回っていはいたみたいだけど」 「キルの気配はカナによく似ている。記憶を失くしていた時、俺はカナのことしか覚えていなかったから、間違えたんじゃないかと思う」  マイラが黙り込んだ。何か考えているようだが、ジンジルの言葉を否定はしない。 「俺の気配って、そんなにキルと似てんの?」  ジンジルが無言で頷く。 「私たちユグドラシル帝国の人間は、気配って言われると魔力の知覚だと思うけど、ムーサ王国の人たちは、違うよね?」  ジンジルはまた、頷いた。 「俺はキルの第二の性を聞いたことがない」 「え? それって、つまり……」 「第二の性の気配。私たちが知覚できないフェロモンの匂い、みたいなもの? カナは薬でベータになっていたけど、セスの反応を思い出すと、オメガの本能を隠しきれていなかったように思うよね」  二人の話を纏めると、キルリスはオメガの可能性が高い、という話になる。 「キルに精霊の血が流れているせいなのか、オメガだがらなのかは、わからない。キルは人と精霊、両方の特性を持っているから」 「どういうこと?」  カナデがジンジルを見上げる。  確かにキルリスは精霊と人の間に生まれた稀有な存在だ。 「精霊と人のオメガは、とても近い気配がする。前からキルとカナはとても似ていると思っていたが、今は前以上にそう感じる」  カナデの項の匂いを嗅いで、ジンジルが頷く。  ドキリとして、カナデは自分の項を抑えた。 「キルの気配に惹かれてジルがここに来たのなら、精霊の里にいる可能性は確かに高いね。どうやって入るかを考えないとだにゃぁ」  マイラが疲れた顔でクッキーをぱくりと頬張った。 「入れないの?」  カナデの言葉に、マイラとジンジルが同時に頷いた。   「昨日、カナを探し回っていた時にね、奥の森にも入ってみたんだけど、結界が張ってあって、進めなかったにゃ」 「俺も自力で入れずに困っている所をカイリに拾われた」  カナデは呆れに近い気持ちで、口を開けた。 「カイリ兄さん、自由に精霊の里に遊びに行ってるみたいなんだけど」  マイラが目をまん丸に見開く。 「あの人は規格外。友達だから入れると説明されたが、よくわからない」  どうやらジンジルもカイリに対してカナデと同じ心象を持っているらしい。  マイラが息を吐いてコーヒーを飲んだ。 「じゃぁ、セスたちに巧く交渉してもらうしかないね。私たちはここで待とう」  そういえば、とカナデは首を傾げた。 「なんでマイラだけここに来たんだ? セスたちは今、どこにいるんだ?」 「その、カイリって人と交渉してるよ。私は別行動でカナを捜して保護する予定だったんだけどね」 「だけど?」  マイラが気まずそうな顔をする。 「空間魔法で隠してるの、すぐにわかったから中に入ってカナとジルを連れて出るつもりだったんだけど、出られなくなったにゃ」  マイラの顔は既に諦めている。  普段は緩い雰囲気のマイラだが、日本までカナデを迎えに来られるレベルの召喚師だ。そのマイラが諦めるほどの状況に追い込まれていることになる。  カナデはジンジルを見上げた。 「カイリは相当に腕の立つ魔術師だ。この空間魔法も、簡単には破れない。俺でも無理だ」 「ジル、もしかして、閉じ込められてるって最初から気付いてたの?」  ジンジルが平然と頷く。 「カイリは命を取るような魔法の使い方をしないし、用が済めば解くだろうと思っていたんだが。マイが来て、事情は察した。動かないほうが良い」  落ち着き過ぎじゃないかと思う。  二年近く、あの変人と暮らしていたから慣れているのだろうか。 「空間魔法ってさぁ、魔力や気配まで遮断する捕獲や幽閉に特化した魔法なんだよね。結界みたいに守り特化じゃない分、如何にも隠してますって感じでさぁ。まさか、吸収壁による脱出不可っていう二重の罠になっているとは思わなかったよ」  なるほど、強い魔術師ほど引っかかる感じだなと思った。  入れるけど出られない、動物の罠みたいな感じだ。 「やっぱりマイでも、内側に張られた吸収壁の妨害は越えられないか?」  ジンジルがコーヒーを含みながら、問う。 「普通の吸収壁なら穴開けるくらい出来るけどさぁ。四方に三重に張られちゃうと、私の魔力全部吸収されちゃうにゃ」  マイラが珍しく悔しそうに話す。  改めてカイリがどれだけ強力な魔術師か思い知った。 「ま、あとは外にいる人たちに任せて、のんびりしよう。クッキーって、もうないの?」 「少し残っている。昨日焼いたもので良ければパウンドケーキがある。腹が減ったのならサンドウィッチでも作るか?」 「やった~、どっちもほしいにゃ」  ジンジルが立ち上がり、部屋の隅にある簡易な台所で野菜を洗い始めた。  二人の状況に対する順応の速さについていけない。 「セス、大丈夫かな」  思わずぽそりと零れた。  カナデが囚われている状況で、あのカイリとセスが温厚に話ができるとは思えなかった。 「アルとリアがいるから、大丈夫だよ~。それより、見つかってからの方が大変じゃないかにゃ」 「見つかってから? なんで?」  含み笑いするマイラの言わんとすることが、カナデにはわからなかった。

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