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バカップルの兆し②

 リカちゃんの目の前で『アレ』を山の中から探すことは、絶対に不可能だ。と、なれば残された方法は1つしかない。  ……この場から、リカちゃんを何とかして立ち去らせる。  これしかない。 「あ!リカちゃん!!晩飯の買い物は?俺が残り全部終わらせるから、明るい内に行った方がいいと思う」  我ながら素晴らしい案だと思った。夕飯を作るのはリカちゃんの役目だし、それを買い出しに行くのもリカちゃんだ。雑誌をまとめるぐらい俺にでも出来るのだから、この案ならリカちゃんも納得してくれるだろう。  そう考えて、自信満々に言い放つ。バレないよう薄い笑みを浮かべてリカちゃんの返事を待てば、俺を見る黒の瞳が不思議そうに歪められた。  どうして、だろうか。その答えは簡単だった。 「夕飯はピザが食いたいって、勝手に予約したのは慧君だろ。今さらキャンセルは無理だからな」  忘れていた事実に、言葉を失ってしまう。  そうだ、昨日の夜にピザのCMを観て、それがすごく美味しそうで、その場で予約してしまったのを忘れていた。親指1本で簡単に予約できるシステムを恨むべきか、あんなにも美味しそうなCMを流したテレビを恨むべきか……恨み相手がわからず、奥歯を噛みしめる。 「ぐっ……それならさ、仕事!まだ仕事残ってんじゃねぇの?」 「テストもまだだし、特に行事もない。今は1年で1番暇な時だけど?」 「――……うん。俺、思うんだけどさあ。こういうのって、自分でしないと駄目だよな?!ほら、自分の行動には、きちんと責任持てって、いつもリカちゃんが学校で言ってるしな!」  仕事でも駄目ならば、残るはリカちゃんの常識に掛けるしかない。ここで俺が気遣う姿勢を見せればリカちゃんの機嫌は良くなり、俺の作戦も成功するだろう。  一石二鳥どころか何鳥も撃ち落とせる最善の方法だ。これ以上ないほどの名案に、リカちゃんからビニール紐を奪おうと手を伸ばすと、俺の指が届くよりも早く、逃げられてしまった。  俯きがちだった顔が上がると、そこにあったのは冷めたような、呆れたような顔だ。 「自分の行動に持つ責任、ねぇ。じゃあ責任持って説明してもらおうか。昨日も散々俺の下で善がりまくって、何も出なくなるまでイキ続けた淫乱ウサギちゃん?」 「――ぎっ、あぁぁぁ!!!!」  逃げ出したその手にあるのは、1冊の雑誌。綺麗なお姉さんが綺麗な身体を、服とは呼べない程に面積の少ない布で隠した写真が表紙の、1冊の雑誌だ。 「カメラは見た!清純教師の夜の特別授業、放課後から始まる秘密のレッスン……ねぇ」  その表面に、真っピンクな文字で大々的に書かれている煽り文句を読み上げたリカちゃんが、ニヤリ口元を歪ませて笑う。 「エロ本、隠す場所間違ってんじゃない?せめてベッドの下か、クローゼットの奥とか……今度はもう少し考えて隠そうね、慧君」  そう、俺が隠したかった『例のアレ』とは、このエッチな本のことだった。

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