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ツンデレラ②

 そんなありふれた日常を繰り返すこと数日。ある日の朝、お城からお達しが届いた。  手紙の宛名には、しっかりと『ツンデレラ 宛』と書かれてある。これがリカちゃん宛だったなら開けはしないけれど、何度確認しても自分宛で間違いない。  それならば、勝手に開けようが何も問題はないではないか。自分宛の手紙をいつ、どこで開けようが咎められる謂れは全くない。  リビングにあるソファに寝転び、行儀悪く足まで上げて封を切る。さすが城からの手紙だけあって、高そうな紙が中から出てきた。そこに記されていたのは……。 『3日後の夜、舞踏会にて王子の婚約者を選ぶ。 国の15歳から25歳までの男子は皆、必ず参加すること』  白い便せんに筆で書かれた達筆な文字が並ぶ。簡潔すぎるそれを再度読み返してみても、俺の疑問は全く消えない。 「なんで王子の婚約者なのに男?」 「そんなの、あいつが男好きのオカマだからだろ」  俺の素朴な疑問は、継母であるリカちゃんによって即座に解決した。  声のした方に顔を向けると、そこには皿を片手に葉巻を吸うリカちゃんの姿がある。微かに漂ってくる甘い匂いは、きっと俺の好物のチョコチップクッキーだ。  ちなみに俺は家事が一切出来ない。飯を作るのも掃除も、2人分の洗濯も全てリカちゃんの仕事だ。しかも、そのどれもがプロレベルで、特に料理に関しては店で食べるより美味い。  リカちゃんの手料理を食べると、もう他のやつじゃ満足できなくなる。いきなり家に住みついたリカちゃんを受け入れてしまった大きな理由は、それだったりする……のは、俺だけの秘密。  案の定、クッキーの乗った皿をテーブルに置いたリカちゃんが、俺が持っていた手紙を奪う。その紙面に向ける視線は、少し冷たいような、呆れたようなものだった。 「と言うか15歳から25歳って……あのオカマ、相変わらず若い男が好きなんだな」  咥え煙草(葉巻だけど)の隙間から漏れる声。そこに含まれた親しげな感じに、俺は首を傾げた。 「もしかして、リカちゃんって王子様と知り合い?」 「ちょっとした腐れ縁的な感じ」 「へぇ。なあ、王子様ってやっぱりイケメン?それとも婚約者を探すぐらいだから、残念な人?」 「どうだろうね。あいつの容姿、才能、性格全てにおいて興味ないから。それよりも、俺にもクッキー1枚食べさせて」  にっこりと笑って皿を指さすリカちゃんにクッキーを差し出すが、ちっとも受け取らない。自分からくれと強請ったくせに、受け取らない意味がわからず、俺の眉間には自然と皺が寄る。 「なんだよ、取れよ早く」 「そうじゃなくて。食べさせてって言ったの、聞こえなかった?」  差し出したクッキーが逆に俺の口元に突きつけられ、不思議に思いながらも齧り付く。口の中に広がる甘味と、チョコレートのまったりとした感じ。  いつもと同じ味、いつもと同じ触感。やっぱり、これが1番美味い。  そのクッキーをもぐもぐと食べていると、静かに指を離したリカちゃんも同じように齧りついた。  形の良い唇がクッキーを食んで、白い歯がちらりと見えて、砕かれたクッキーがリカちゃんんの口の中に消えていく。その様子を、俺は誰よりも、何よりも間近で見ていた。  だって、リカちゃんが齧りついたのは、俺が食べている真っ最中のクッキーだったからだ。  

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