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留守番

「じゃあアル、俺行ってくるから…」 「………」 「ご飯、レンジでチンするだけだしお風呂も溜まってるから自分でやってね?鍵持ってるし寝てていいから」 「………」 「………じゃあ、ね…」 杉田さんとギスギスしてしまった週末、杉田さんは俺が言った通り一人であの赤い髪のやつとご飯に出かけていった。出て行く前に杉田さんが声をかけてきたけど無視して返事をしなかった。 「………」 部屋がシーンとなる。いつものソファに体育座りをして猫のぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめた。シーンとしてなんの音も聞こえない。 ………部屋…こんなに静かだっけ…? 杉田さんと過ごし始めてから一人になることがなかったからなんだか変な感じだった。 …………別に…さみしいわけじゃないし… 自分で思いついた考えを自分で否定して再度ぬいぐるみに顔を埋めるとくぅっとお腹がなった。 「………」 ちらっと目を向けると杉田さんが作ってくれたカレーがラップをかけられてテーブルに乗っているのが見えた。 ……チンして食べてって言ってた… くうくう切なそうな声を出すお腹を押さえ、なんとなく杉田さんが戻ってこないことをドアの方を見て確認してからお皿に乗ったカレーを手に取った。チーズも乗っていて思わず口の端からよだれが垂れた。キッチンの方に備え付けてある電子レンジをみる。 ……あれに入れて、なんか横のやつを捻ればいいんだ… 杉田さんが使ってたのを思い出してカレーをそこに入れてから横のダイヤルを思いっきりひねった。ジーっと音が鳴って中でカレーがくるくる回っているのが見えた。 ………… しばらくするといい匂いがしてきた。中でカレーがぐつぐつなってるのが見える。 ……まだかな… こうしてチーンと音がなるまで待つこと15分、やっと音が鳴った。いい匂いがして待ちきれなくて手を伸ばし皿を掴んだ。すると手にビリッと痛みが走った。 「あっつい!!」 反射的に手を放した次の瞬間カレーの乗ったお皿はガシャーンと大きい音を立てて床に落ち割れてしまった。レンジのかけすぎでカピカピになったカレーもそこら中に飛び散っている。 電子レンジで温め過ぎていたこととオレが思いっきり掴んだことが原因だったけれどそんなことしちゃいけないってオレは知らなかった。 「………カレー…」 楽しみに待ってたそれがダメになってしまい、でも熱くてショックを受ける。ちょっと食べれないかな…と思って落ちたそれの上の方のカピカピのジャガイモをつまんで食べてみたけど塩っ辛くって全然美味しくなかった。 床に飛び散るそれをどうにかした方がいいのはわかっていたけど、どうしたらいいのかはわからなくて仕方なくそのままにした。お腹がまたくうっとなるけれどこういうときどうしたらいいかわからない… ………杉田さんが一人で行っちゃうから… むすっとして次は仕方なく風呂に向かう。お風呂は一人で入れるから大丈夫だ。 ………カレーは杉田さんが帰ってきたらなんとかしてもらおう… 「はー…」 でも、湯船に浸かるとイライラも少しだけ治ってきた。お風呂はなんだか好きだった。 ……うん、そうだよね…ちょっと失敗しちゃったけどチンはできたもんね、オレ… 昔、星野さんに『チンするだけで食べれるもの用意しといたから』って言われたけれど『チン』が何かわからなくて結局全部星野さんがやってくれることになったときのことを思い出した。 ……今回は自分でできたもんね… この時はもしかしたらひさびさに褒めてもらえるかもとまで思っていた。 お風呂でスッキリしていい気分になってお風呂から出た。今日は拭いてくれる杉田さんがいないからそのままベッドに向かう。廊下にはぼたぼたと滴った水で水たまりができ、ベッドのシーツは濡れて色が濃くなった。 ………はぁ…一人でご飯食べて(結局たべれなかったけど)、一人でお風呂はいって疲れたな… 濡れた布団の中に潜り込むと部屋の静かさが余計際立つようなかんじがした。 この時オレは少し、ここ数日杉田さんに意地悪を言ったことを後悔していた。 ………杉田さん、早く帰ってこないかな… そんなことを思いながらウトウトした。

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