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 まっすぐ見上げて答えた晴に、男は驚いたように目を見開いた。  そしてやや苦い声で「意外だ…」と呟き、嘆息する。そのままゆっくりと晴に近づき、じっと見上げたままの頬に手を伸ばした。 (……え?)  何を? 問いかけた瞬間、顎が掬われ唇が重なる。最初、晴には何が起きたのかわからなかった。すぐに自分がキスをされているのだと気づき、慌てて何か言葉を口にしようと唇を開きかけた。  その隙間から熱を持った滑らかな舌が侵入してきた。そして、晴の舌をくすぐるように絡みついてくる。 (……っ!)  頭の芯で花火が弾ける。それがいくつもの光の束になって、チカチカと瞬く。未知の感覚に息ができなくなった。 (な、なんで……?)  無意識に逃げようともがくが、耳の後ろを大きな手で支えられて動くことができなかった。 「ん……」  男の胸に手を突き押し返そうとするが、逆に強く抱きかえされて、早鐘のように鳴る心臓が今にも壊れそうだと思った。広い胸を押していた手は徐々に力を失くし、その質のよいシャツをすがるように握り締めていた。 「ん……。ふ……ぅ…」  小さく震えた晴に、一度唇を離した男が可笑しそうに笑う。 「案外慣れていない。それとも、唇へのキスは禁止というやつか」  何を言っているのだろう。ドキドキと激しく騒ぐ鼓動に息を切らし、言葉を探していると、男は楽し気に笑みを浮かべた。 「まあ、それもいい。なかなか新鮮だ」  そして、再び唇を合わせてくる。いきなり深く舌が差し込まれ、晴は声にならない悲鳴を上げた。 「あ……、ん、ふ……っ」  口の中を隅から隅まで舐め尽くされるようだった。まるで波にのまれるように、猥らな何かが晴の内側を満たしてゆく。その感覚にビクビク震えていると、男の手がそろりと晴の腰を撫でた。 「ふぇ……っ」  下肢が熱を持つのがわかった。  背骨にそって、ゆっくり確かめるように長い指が上下する。肩甲骨から腰骨にかけて甘く痺れるような快感が走り抜け、身体が小さく震えた。 「は……」  唇が離され、吐息が零れ落ちる。 「ずいぶんと、初々しい反応だな」  男はまた楽しそうに笑った。両手で晴の脇腹を支え、唇で首筋や肩をたどり始める。 「あ……っ」  だめ……と、声にならない声とともに吐息が漏れる。 (なんで……?)  なぜ、こんなふうに触れられているのだろう。わけもわからないまま、わずかに背を反らして薄く瞼を開いた。が、至近距離から見つめる完璧な顔が目の前に現れ、慌ててもう一度目を閉じた。  肌が熱い。  初めて知る甘い愉悦にぞくぞくと鳥肌が立つ。感じて震える自分の反応が理解できず、ただ混乱したまま、抗うこともできずに、大きすぎる官能の波に流されていった。

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