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第16話 前のめりなヤクザ

  「…………はぁ…………」  本日何度目のため息になるだろうか。  窓の外に広がるうららかな春の青空を見上げながら、僕はまたしても溜息をついた。  椿さんが大阪に帰って一週間が経ったが、何をしていてもあの晩のことを思い出してしまい、まったくもって上の空だ。まるで勉強に身が入らない……。  そっと、自分の唇に触れてみる。それだけで、椿さんから与えられた愛撫の全てを思い出し、かぁぁぁと頬が熱くなった。  ――ダメだ……。思い出したら、また勃っちゃう。はぁ、参ったなぁ……。  椿さんから初めて聞いた過去の話や舎弟の人たちを想う気持ちや、覚悟。これまでとは違う椿さんの一面を知ることができたこと。そして、優しいキス。不意打ちの素直な笑顔に絆されて、僕はあのあと、うっかり布団にまで連れ込まれてしまった。  連れ込まれてハッとした。  ひょっとしてひょっとすると、僕は実は騙されていて、えっちなことをされた挙句動画なんかを撮影されて、後々脅迫でもされるんじゃないかと。  これまで僕はこの人の色んな恥ずかしい場面を目の当たりにしてきたけど、椿さんの本質はヤクザなのだ。このまま流されるのはよくないかもしれない……!!  と危機感を抱き、この状況を回避すべきなのではと思ったけど……できなかった。  間髪入れずに重なった唇は、どこまでも優しかった。角度や強度を変えて、何度も繰り返しキスをしながら優しく僕の髪を梳き、時折愛おしげな眼差しで僕を見つめる。  僕が抵抗しないかどうかを確認するように。逃げ出す隙を、与えるように……。 「ん、ぁ……ハァ……」 「……お前の唇、めっちゃ気持ちええな。……もっと、口開けてみ」 「ん……は……ぃ」 「ははっ、素直やなぁ紬は。知らんで、悪い大人に騙されても」  唾液で濡れた僕の唇を指先でなぞりながら、椿さんはゾクゾクするほどに妖艶に微笑んだ。そして、するりと口内に挿入(はい)り込んでくる椿さんの舌が、僕の上顎をゆっくりとなぞっていく。  丁寧に、僕の中を味わうように、色んなところを椿さんの舌が這う感覚はあまりにも淫らで、気持ちがよくて……僕はいつしか、自ら口を開いて続きをせがんでいた。 「ァ、んっ……ふぅ……ンっ……」 「エッロい声出すやん。……めっちゃそそるわ」 「だって……、きす……きもちいぃ……っ、ンふぅっ……ん」  目が慣れてくると、開けっ放しの障子から差し込む月光で、椿さんのひりついた表情が見て取れた。頬を上気させ、いつになく余裕のない潤んだ瞳で、僕を見つめている。 「ぁ、あっ……ン、っ……ふ……」  さっきよりも深く、ねっとりと濃厚なキスが降り注ぐ。甘い快感に脳が痺れ、腰が震えて、僕は夢中になって椿さんと舌を絡め合った。濡れたリップ音が客間に響き、ものすごく淫らな気分だ。  ふと、椿さんの腰が上下に揺れていることに気づく。すっかり硬くなってしまった僕のペニスに、椿さんは自分のそれをすり寄せているのだ。 「……あ、あ……んっ、なにしてるんですか……」 「あのな……正直、俺めっっっっちゃ我慢してんねん」 「え?」 「お前と知り合うてから誰ともヤってへんし、ヤりたいとも思わへんくなった。……でも、紬とは……」  ぐ……と股間に押し付けられる椿さんの剛直は、あまりにも凶暴な大きさと硬さを持っていた。僕が思わず「ひぇ……」と声を上げると、椿さんはちょっと苦しげに眉根を寄せて、「ハァ……」とセクシーなため息を漏らす。 「あ〜〜〜〜挿れたい……。……けどお前にはまだ、そんなことしたらあかんような気もするし……」 「な……んで?」 「何でってお前……。ええんか? コレ、お前のケツに突っ込まれても」 「……け、けつ……?」 「え、マジで知らへんの? 男同士のセックスはな、ケツの穴使うねん。……ここに、コレが入んねんで」 「ひゃっ……」  ぐ……とお尻の谷間に椿さんの指があてがわれて、僕は思わず間の抜けた声を上げていた。以前と同様、僕はいつの間にやら大きく脚を広げていて、その間に椿さんを挟み込んでいる格好になっている。  しかも、パジャマズボンの上からお尻の穴のあたりをぐにぐにと弄られているのだ。恥ずかしいことこの上ないが、その刺激はじわじわと僕の身体に快感を伝えてくる。僕が思わず「んっ、んぁっ」と息を漏らすと、椿さんはニィ……と猛々しく笑って、するりと僕のズボンを脱がせにかかってきた。 「あっ……な、何してっ……!」 「気持ち良さそうな声出すほうが悪い」 「だ、ダメですよ……!! そ、そんな、そんなおっきいのはいんない……!!」 「挿れへんよ。でも、もうコレだけじゃ足りひん。もっと気持ちええこと、したるから」 「あ、あっ……!」  下を脱がされ、パジャマの前まで開けられて、あられもない格好にされていた。椿さんは再び僕の唇に濃密なキスを与えながら、僕のむき出しペニスを掌に包んで扱き始める。 「あ! ぁ! ァん、んっ、やっ……!」 「ハァ……エロいな、ほんま。感度もええし、めっちゃかわいいわ」 「ん、ぁ、っ……つばきさん、っ……ぁ、ハァっ……ぁ、あっ……!」 「もうイキそうになってるやん。……そんな気持ちええ?」 「ンっ……んぅ、はぁっ……きもちいい、っ……ん、ん、んんっ……!!」  あっという間にイってしまった僕を笑うこともなく、絶頂後の余韻で震えている僕の頬や耳にキスをしながら、椿さんは自らのスウェットをずり下げた。  ぬぅ……っと露わになる椿さんのそれは…………巨大だ。ちょっと目をみはるくらい巨大なそれを、僕は思わずガン見してしまった。  先端は先走りでやや濡れていて、生々しくもリアル。下腹につくほどに硬く反り返っているのは、僕とキスをしたり、えっちなことをしたせいだろうか。僕なんかで、そんなになっちゃったんですか……? 「素股で勘弁したるから、後ろ向け」 「……すまた」 「オイオイ、高校生のくせにそんなんも知らんのか? ったく、お前はもうちょっとエロについて勉強したほうがええで」 「し、知ってますよそのくらい!!」 「ついでに、危機感も学んだほうがええな」 「……そ、そんなこと言われても……わっ」  ぐっと腰を掴まれて四つん這いにされ、何をされるのかとひやっとする。だが、ぺろんとパジャマをたくし上げられ、背筋をねっとりと舐め上げられてしまえば、危機感などあっという間に溶けて消え、「ぁぁん……」と甘い声が溢れ出す。 「お前、腰も背中も細いねんな。もっと食わなあかんで」 「あ、あのっ……何を……」 「挿れへんから安心しとけ。けどな、俺も気持ちよくならせてもらうで。……ほら、脚閉じて」 「あ……っ」  ぐ、と腰を掴む椿さんの指に、力がこもる。そして、ぬちぬち……と僕の太ももを割って、椿さんの屹立が……。 「あっ……な、なにこれっ……んんっ……」 「これなら、痛くもかゆくもないやろ」 「ぁっ、いたくない、けどっ……ぁ、わぁっ……ぁっ……」  ぬ、ぬ、と椿さんの熱い塊が、僕の太ももを擦る。ぬるぬると濡れたそれで内腿を擦られるくすぐったさは、あっという間に僕に甘い興奮を与えていた。 「あ、あ……あん、んっ」 「……オイ、挿れてもないのにそんな声が出るんか」 「だ、だって、ァ、あん、きもち、いいっ……ン、あ、あっ」 「ほんっまに、どんだけドスケベな身体してんねん。そんな声で男煽ってたら、めちゃくちゃにヤラれても文句言われへんで……?」 「んんっ!」  椿さんは身をかがめて僕の背中に覆いかぶさり、肩口やうなじに、何度もきつく吸い付いた。ちゅ、じゅっ、と吸われるたびに、ちりりとした痛みが走る。だが同時に、ツンととがった乳首までくにくにといじられ、僕はたまらず悲鳴をあげた。 「アッ……! ぁ、あんっ……や、ァっ……ちくびっ……や」 「嫌なわけないやろ。めっちゃ腰動いてんで」 「ぁ、うごいてな、っ、ぁ……はぁっ……ぁ、んっ……!」 「あかん……俺、ちょいもうイキそうやわ」  耳元で嘆息とともにそんなことを囁かれるや、椿さんの腰の動きが荒くなる。パン、パン、パン! と僕のお尻にぶつかる椿さんの腰の激しさで、腕を突っ張っていることができなくなり、へなっと枕に顔を埋めた。 「ハァっ……ハァ……っ、紬……ええな、お前……」 「ぁ、あ、ッ……つばきさん、らめ……またぼく、いっちゃうよぉ……」 「えぇ? チンポ触られてもないのにかぁ?」 「っ……だって、こんなきもちいいの、ぼく、はじめてで……っ、ァ、ああっ……!!」 「ああもう……ほんっま、あかんでお前……ッ……あ、くそイく。……早すぎやろ俺……っ」  ひときわ律動が速くなり、骨が軋むほどに腰を掴まれる。ほどなく、びゅるっ……と熱い体液が僕の顔の方にまで迸ってきた。それでもな動きは止まらず、椿さんはもう二、三度深く僕に腰を打ち付けた後、ようやく僕の身体からペニスを離した。  結局僕も、素股をされながら乳首をいじられただけで、もう一回射精していたらしい。汗と精液でとろとろに濡れた身体に、ひんやりと春の夜風が触れていく。 「はぁっ……はぁっ……はぁ……っ……」 「ごめんな、紬……」 「……え?」  唐突の謝罪に驚き、僕は重たい身体をのろのろと持ち上げ、後ろを振り返った。  しっとりと汗に濡れた黒髪をざっと搔きあげ、椿さんはじっと僕を見つめている。そのまなざしに射抜かれるだけで、どういうわけか身体の奥がかすかに疼く…………のは何故だろう。 「俺……明日大阪帰らなあかんねん」 「へ……? あ、そ、そうなんですか? 良かったですね……」 「ほら、またそんな健気なこと言うやろ。もっとワガママになってもいいんやで?」 「? わがまま?」  凛々しい瞳でまっすぐに僕を見つめつつ、椿さんは流れるような動きで僕の顎を掬い、ちゅっと軽くキスをした。そして物憂げな表情でため息をつきつつ、僕の肩を抱き寄せる。 「さみしいやろけど、我慢するんやで? これからはマメに連絡するし、手が空いたらすぐ会いに来るからな」 「えっ? い、いえ、そんな無理しなくても……」 「俺の前ではエエ子にならんでもいいねん。なんやったら、お前も大阪(あっち)で暮らせるように手配すんで」 「…………ん? くらす? あの……何をおっしゃってるんですか?」 「だってお前、俺と離れるん寂しいやろ。くっ……俺もつらいねん。ほんまずっとお前のそばにいてやりたいねんけど……」 「はぁ……」 「紬。寂しいからって、他の男に脚開いたら許さへんで。ええな」 「はぁ……」  そう言って、椿さんは別れの痛みを堪えるように、唇をぎゅっと引き結んだ。  その前のめりすぎる思考に、その時はイマイチついて行けなかったのだが……。  ――でも……確かにちょっと、寂しいかも……。  あのあと、椿さんは僕にただの添い寝をしてくれて、翌朝大阪へと帰っていった。静かで単調な日常に戻ってみると、椿さんの身にまとう圧倒的な存在感が、僕の中でより鮮やかに色づいていくような気がしていた。  あの人と出会ってからこっち、僕の周りはこれまでになく賑やかになった。  価値観も変わった。霊たちに向ける気持ちや、浄霊に対する心構え。そして、ヤクザの人たちに対するイメージ。  霊も人間も同じだ。声を聞けば聞くほどに、色んな人生があって、色んな想いを抱えている人がいるんだってことを知った。  ぬくもりに包み込まれる安堵感や、心地よさも。  さらには、とろけるような快楽や、痺れるほどの甘い昂りまでも教え込まれて……。  ――寂しい……か。確かに、これまでとはちょっと違った寂しさを感じるような気もする……。  自分の気持ちが分からない。   僕のことなんて、どうせただの暇つぶしだろうと思っていた。あの人も自分の日常に戻ってしまえば、僕のことなんてすぐに忘れてしまうだろうと。    ――本当に、また会いに来てくれるのかな……。 「…………って、待て待て待て待て。ってことはさ、僕はまたあの人に会いたいってことか? 相手は超イケメンでヤクザの若頭なのに? いやいやいや……待て待て待て待て……いや、会えたら嬉しいけどさ、でも、でも……」 「桐ヶ谷くん? 桐ヶ谷くん、どうしたの?」 「…………えっ? あっ、はい!!」  ハッとして周りを見ると、クラスメイトたちの訝しげな視線が揃ってこちらを向いていた。どうやら、何やら指名されたようだが僕がぼんやりしていたせいで、授業が止まってしまったらしい。 「すっ……すみません! ええと……」  大慌てしつつ立ち上がったところで、ちょうどよくチャイムが鳴った。

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