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第1話 -2

 顔見知りならそれなりにいるが、自分と関わろうなんて輩はそうそういない。  視線こそ感じるが誰も話しかけては来ないゲームセンターで、悟志はどうやって暇を潰そうかと筐体を眺めていた。  どれもこれも見たことがない、遊び方すらわからないものばかり。わかるのはよくわからないぬいぐるみが景品になっているUFOキャッチャーくらいだ。  財布の中には一般の高校生からしてみれば大金と呼ばれる額が入っているが、それを使いたいとも思わず眺めているだけ。  木を隠すなら森の中。人を隠すなら人混みの中だとゲームセンターを選んだが、一人で自由に動けるのだから本屋にでも行った方が有意義だったか?  何をするわけでもなくベンチに座りゲームではしゃいでいる同年代の姿を見ていると、その隣にどさりと小さい子供が座った。 「遊ぶなら呼んでよ、一人で外出るのなんて久々だろ?」 「……別に、遊びたいから抜け出したわけじゃない」 「もー、さとはいっつもそう。学校でも無視するし、ひーくん寂しいなー?」  ふざけた口調で、少年は悟志の腕に頭突きをかます。それを拒否することも押しのけることもせず、悟志は黙って受け入れた。  顔に似合わない大きなマスクに大きな伊達眼鏡。その下に見える大きな瞳は、まっすぐに悟志のことを見上げていた。  彼は悟志の幼馴染だ。悟志がまだ実家のことについてよく知らなかった幼い時期から、今も変わらずに接してくれる唯一の人間。  遠野光(とおのひかり)。幼稚園、小学校、中学校、そして高校までずっと悟志と同じ進路を歩んできた幼馴染。天真爛漫な性格と愛らしい容姿は昔からずっと変わらず、とても眩しい。  悟志にとって、光は太陽だった。 「さと、そろそろ此処出よう。さっき外に家の人いたから」 「別に、見つかったって構わない」  小さい声で忠告を受けるも、悟志はもう十分だと感じていた。  確かに逃げはしたが、もう十分一人の時間は確保できた。だからもう帰ってもいい。  そんな悟志の手を、光は強く引いた。 「だーめ。久し振りにさとと色々話したいもん。それに、嫌になったから逃げたんだろ?」 「……それは、そうだけど」 「ならいいでしょ。俺のために逃げて?」  臆面もなくそんな言葉を口にして、光は悟志を連れ裏の出口から外に出る。少しずり下がった眼鏡を指の背で上げながら、光は悟志に笑いかけた。 「もし家の人に見つかったらさ、俺と鬼ごっこしてたって言えばいいよ!」 「お前、俺の家のことちゃんと覚えてるのか?」 「ばっちり覚えてまーす。ほら、行こ行こ」  ヤクザの息子なんて誰も近寄りたがらない。こうして分け隔てなく接してくれるのは光だけだ。  だからこそ、悟志は目の前の太陽にどうしようもなく惹かれている。例え他の人間と自分が同じようにしか見えていないとしても、光は大切で特別。  自分の腕を掴み走る光の小さな背中に、どうしようもなく焦がれていた。

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