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第1話 -4

「さと、最近元気なかったみたいだったから」  ブラックコーヒーを頼み、冷めるのを待ちながら光はそう零す。  悟志はカフェモカを一口呷り、小さく首を振った。 「いつものことだから、お前は気にしなくていい」 「気にするよ。そんなこと言って、さとはいっつも抱え込むんだ」 「お前も似たようなもんだろ」 「俺は違うよー。ちゃんと無理そうだったら無理って言うし、爆発する前に発散してるし」  でもさとは、そうじゃないだろ? そう笑う光の言葉に何も返せなくなり、悟志は黙り込む。わかりやすい反応だと光はからからと声を上げ笑いながらマスクを摺り下げ、コーヒーを一口。まだ熱かったようで眉間に皺を刻ませた光は、受け皿ごと少し自分から離した。  高校は同じだが、科も違い関わることのないはずの悟志の様子が違うことに光はすぐに気が付く。そうして今日も偶々見つけたと探し出し、こうして悟志を連れ出した。  そんなことをしたって、所詮悟志は光からすればただの幼馴染でしかない。そんな事実もまた悟志の胸を締め付ける。  この想いを伝えることは家との縁を切ったってできないのに、なかったことにしようとしても光の行動がそれを許さない。こうして顔を合わせて話をするだけで悟志がどんなに太陽に身を焦がされているかも知らずに、能天気にまた笑うだけ。  同じ高校に入ったのは偶然だった。今の高校に芸能コースがあることは知っていたが、光は都内でももっと交通の便がよく、毎日の通学の必要もないところに通うとばかり思っていたから。悟志はただ近所だからと何も考えず選んだのだが、合格した自分の番号を指さした写真を光が送りつけてきて初めて知った。また一緒だなんて言葉が嬉しくなかったと言えばそれは嘘になるが、それ以上にまた光から離れられないのだと、正直落胆したのも確か。  眩しすぎるから離れたいのに、それを許してくれないのは光自身。  こうしてずっと、悟志は縛られ続けてきた。

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