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第1話 -7

 自宅である九条組の敷地内に車で乗り付け、玄関前で扉を開かれる。荷物も持たずに車から降りると、悟志は挨拶をしてくる男達のことは見もせずに真っ直ぐに屋敷内へと入った。  平屋構造の奥、中庭を挟んだ離れが悟志の暮らしている部屋だ。そして父がいる場でもある。進むごとに足取りは重くなるが、それでも進まなければいけない。拒否をすれば何が待っているかなどもう中学生の頃に重々思い知っている。  自室は素通りし、父の部屋に入る。父は入口に背を向けていた。障子を閉め、父のすぐ後ろに座った悟志は握り締める手に力を入れ、平静を保っているように声を発した。 「帰りました」 「遅かったな」 「本屋に行っていたので。……部屋に戻ってもいいですか」  そんな質問するだけ無駄だとわかりきっている。毎日のように繰り返されるその問いは、所謂一種の儀式のようなもの。  ぬう、と父の手が伸びて来る。きっちりと締めていたネクタイを軽く引かれ、抵抗せずに首を曝した。  いつものことだ。いつものこと、だから今日も終わるまで目を閉じていればいい。  ねっとりと首筋に生暖かい感触が這う。畳の上に押し倒され拒否もせずに服の中を弄られ、聞こえるのは自分を押し倒す父の荒い吐息と、父から贈られた時計の秒針の音のみ。 「ん……」  もう何年も同じことをされ、開発された体は敏感に反応してしまう。  鼻から抜ける吐息に、父は満足そうにくつりと笑った。 「本当に、可愛らしい愛息子だ」  息子だなんて、思ってもいない癖に。  悟志が中学生になってからか。父は悟志のことを明らかに息子としてではない目で見ていた。顔が母に似たからかもしれない。まだ成熟しきっていない体は父によって穢され、毎日のように犯された。  初めては好きな人となんて生娘のようなことは言わない。それでも、父と慕っていた男に裏切られ、無理に体を繋げられたあの日のことは決して忘れられない。  そして、これからも一生それはつきまとう。もう何年もこうして父に好きにされ続け、陰で寝子(ねこ)と呼ばれることは父が生きている限り終わらない。  汚れることも気にせずにこの場で自分を犯し始めた父が与える快感に喉の奥から嬌声が毀れる。  毎日のようにこんなことをされているなんて、光に知られたら絶対に拒絶されてしまう。  それだけは、嫌だ。  悟志はこの場でだけに留めてほしいと、自分を抱きしめ一心不乱に腰を振っている父に縋りつくように抱き着きながらも肩口に顔を埋め、現実を見たくないと瞼をきつく閉じた。

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