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第2話 -5

 市倉が何もしないと今回もちゃんと証明できてから、悟志は漸く離れる。濡れた服の上から抱きついてしまった所為でまた濡れた肌を拭われ、終われば着替えを渡される。  裸を見て髪を洗っても、着替えは手伝わない。よくわからない線引きだが、それもいつものこと。  今日の図書館、市倉も中までついてくるだろう。同級生に見られたらまた父だと誤魔化すのだろうか。 「お前が俺の親だったら良かったのに」 「坊ちゃんが俺の息子なら何回ぶん殴ってたかわかりませんよ」 「その方がいい。殴られる方がマシだ」  父とは一度も外で会ったことがない。幼稚園の迎えにだって来たことはなく、隣にいたのはいつも市倉。肌を撫でられるより頭を殴られた方が余程いい。  遊園地だって動物園だって市倉と行ったことしかない。小中の修学旅行は出席できず、行きたかったとごねた悟志を市倉が連れて行ってくれた。  父が金を出したのかもしれないが、実際に連れ出してくれたのは市倉。彼に懐くのも当然の話だ。  ――きっとそれが気に入らないから、父は市倉にいい顔をしないのだ。  元は部屋住みで24時間悟志の警備を任されていたのに、必要ないからと外に出された。給金だと金は出されているものの、普通なら有り得ない対応。  自分が悟志を抱くのに邪魔だから、夜の間は近付けさせない。あまりにもわかりやすすぎる対応に他の部屋住みの若い衆も父に呆れていたような様子だった。まあ、当然それを口には出すことはないのだが。  悟志が服を着ると、白い肌に散らばる赤い痕が見えないかチェックされる。露出が少ない服なのはこれの所為。慰み者にさせられていると他人に知られないようにと市倉なりに考えた結果の服装だ。  いつも通り痕が見えないことを確認してから扉を開け、唯一濡れていないジャケットを肩に掛けて先に外へ出る。誰もいないことを確認し、悟志を部屋へと誘導した。  水浸しになった廊下はきっと若い衆が掃除をする。まだ朝の7時前だ。昼までには綺麗にされるだろうが、跡が残らないだろうか。

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