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第2話 -8
そういえば、光に連絡をとるのを忘れていた。別にしなくたってあれは怒らないだろうが、一応は約束。悟志は起き上がると助手席に手を伸ばし、クラッチバッグから携帯を取り出した。光にせがまれて始めたSNSを開き、たった二人の連絡先から光を選ぶ。
何を送るか迷った末、また寝転び窓の外を写真に撮る。
『降りそうだな』
それだけ打って送信すると、すぐに既読がついた。性格柄見るのも早いと思っていたが、たった数秒で既読されると思わなかったため少し面食らう。
『雨苦手なのにー』
悲しそうな絵文字付きで送られてきた文章を一読し、返信はせずにアプリを閉じた。
いつも往復した連絡はとらないから、あちらも返信が来ることがないのはわかっているはず。悟志は携帯から視線を逸らし、市倉の帰りを待った。
少しすると市倉は大きなレジ袋を提げて戻ってきた。悟志にはお茶のペットボトルを渡し、自分はコーヒーの缶を開ける。それを後ろから見ながら、悟志は頸に見えた黒子を指で突いた。
「うおっ」
「図書館開くまで何処で時間潰せばいい」
「車内で大人しくしといてください」
「また逃げるぞ」
「やめてください。ナンプレでも買ってきますか?」
「興味ない」
我儘だらけも慣れているのか、市倉はレジ袋からおにぎりを取り出す。いつも食べている具材のものだろうが、背後から手元を覗き込んだ。
「何買った?」
「おかかと海老マヨネーズです。飽きました?」
「飽きてない。早く」
フィルムを剥がし、綺麗に三角を作ってもらいようやく受け取る。自分ではやらずに剥いてもらうのだっていつものこと。
おにぎりを頬張りながら、パンの封を開ける市倉に声をかける。
「世話係、俺が死ぬまで辞めるなよ」
「その前に俺が寿命で死にますよ。幾つ違うと思ってるんですか」
実際に親子だとしてもおかしくない年の差に、市倉は笑い飛ばす。
本気で言ったのに。悟志は少し拗ねたように唇を尖らせた。
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