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第2話 -10

 漸く一人で周れるようになった。市倉の視界から外れるように学問に関わるコーナーから離れ、小説を漁りに行く。  家柄からか、海外文学はあまり触れたことがない。先祖代々極道として生きてきたからか、未だに西洋にかぶれるだのなんだのと洋装すら好まない父の機嫌とりに外国の文化に触れることもあまりなかった。  家の外でないと洋食だって食べられない。別に和食が嫌いなわけでも、日本文化が嫌いなわけでもないから家の中で触れないようにするのは別にいいが、この現代で外国文化を遮断するのは悪手だろうと思わずにはいられない。  悟志にプレゼントした時計だって、日本製とはいえ海外の技術を取り入れているものなのに。携帯すら所持を嫌がるなんて前時代的にも程がある。  どんな小説があるだろうか。適当に分厚いハードカバーの本を手に取り、パラパラとページをめくる。シンデレラのような無難なものはストーリー自体は知っているが、その他は一切知らないものばかりだ。  その本は児童向けらしく、童話集のようなものだった。他にもないだろうか、本を手に持ったまま書架に並ぶ背表紙を眺めていると、横から注がれる視線に気が付く。  知り合いだろうか、そう思いちらりと見やると、自分と同じ年頃の男が立っていた。 「……?」  見覚えがあるような気もするが、明確には思い出せない。こんなにも見られているということは中学辺りの同級生だろうか。じっと見られていることに対して声をかけるべきか躊躇していると、男の方から話しかけてきた。 「九条って童話とか好きなの? 意外」 「……お前、誰だ」  不躾に失礼な奴だ。誰がどんなものを読んでいようが本人の勝手だろうに。  少し不機嫌になりながら名前を問うと、男はふふ、と笑った。 「同じクラスの顔くらい覚えててよ。伊野波(いのなみ)時雨(しぐれ)、お前の二つ隣の席なんだけど」 「覚えがない」 「酷いな。っていうか、学校以外で九条のこと初めて見た。家この辺りなんだ?」 「同じクラスなら知ってる癖に、冗談が好きなんだな」 「はは、そんなに怒らないで」  時雨は悟志から視線を外し、同じ棚から別の分厚いハードカバーを手にとる。迷いなく幾つか探していくそれを眺め、悟志は自分の持つそれに視線を落とした。  多分この本はすぐに読み終えてしまう。時雨に聞けばお勧めを教えてもらえるかもしれないが、同じクラスということは学校でも話しかけられる恐れがある。今の時点でその恐れが既にあるのに、共通点なんてものを増やしたら益々それの可能性が上がってしまう。  学校では極力他人に話しかけられたくない。誰か一人と他愛ない話をしているだけで、不躾な奴等に家庭のことを聞かれるかもしれないから。光と同じクラスだったこともある中学生の頃に散々あったからもう懲りた。だから、高校では話しかけられることのないように教師以外とは極力会話をしないように努めてきた。  だが、10分もすれば市倉が来てしまう。あれが読ませようとしてくるのは幼児向けであったり、人死にが一切出て来なかったり、正義と愛だけでできた薄ら寒い美談だったり。少しでも過激な描写があるものに決めようとすれば棚に戻されてしまう。日本人が書いた新しい小説でもそんなものばかりで正直飽きる。自分は刺激があるものに過敏に反応するような幼い子供じゃない。年相応のものが読みたい。  ……聞くか。悟志は時雨に再度視線を向けた。
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