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第3話 -3

 まだ弁当を食べている途中だった。  光も落ち着いた、時雨は正直どうでもいい。放置していれば勝手に帰るだろう、そう考えてまた箸を取る。 「九条、いつも此処で食べてんの?」 「下だと読書も集中できないからな。そういえば、お前らはなんで俺が此処にいるって知ってたんだ」  勝手に鍵を開け居座っているだけで、屋上が開いているなんて誰も知らないこと。悟志が此処にいることは誰も知らないはずだ。  光に聞いてもはぐらかされる。時雨に視線をやれば、光を指差した。 「俺ならさとがいそうなところわかるもん! って言い出したからついて来たら本当にいただけ。単に偶然だよ」 「犬か何かか?」 「幼馴染パワーってやつだよ」  そんなパワーあってたまるか。  白けた目で見ながら内心で突っ込み、卵焼きを一口。光は弁当箱の中身を覗き込み、キラキラとした瞳で悟志を見上げた。 「俺も此処で一緒に食べたい!」 「駄目。お前が来たら他の奴までついてくる」 「なんでー、こっそり来るから! お願い! 卵焼きください!」 「……それが本音だろ」  ほら、とまだ手をつけていない卵焼きを箸でとり、目の前にやると光は一口でそれを頬張った。さも幸せそうに噛み締めるそれに絆されそうになるが、それはそれ。食事時に騒がれたくないし、光のファンがやって来ない保証は全くない。知らない奴等に平穏を乱されたくない、それが一番の理由。  だが、渋る悟志を説き伏せるためにどうすればいいか、光が一番わかっていた。雨に打たれた子犬のように寂しげな表情に変え、じっと無言で見上げる。たったそれだけなのだが、だからこそ弱い。  いつもは騒がしい光の無言の圧力に耐えきれず、悟志は弁当箱に蓋をし溜息を吐いた。 「まだ食ってないなら持ってこい」 「やったー!」  すぐさま立ち上がり走っていくそれに、やはり誰か他にもついてくるのではないかと心配になる。そんな悟志に、時雨は光の幼馴染は大変そうだなと声をかけた。 「光、仕事だともっと落ち着いてるのに。小さい頃から知ってるとやっぱ気が抜けるのかな」 「仕事中のあれを知らないからなんとも言えない」 「それもそうか。……九条さ、お前光のこと好きだろ?」 「は?」 「見ればわかる、っていうかバレバレ。隠したいならもっと表情筋鍛えれば? 鉄仮面がぐにゃんぐにゃんになってる」  いつもと変わらないはず。態度だって他の者相手とそう変えていない。悟志は自覚もなく、自身の顔に触れた。  大して関わりもなかった時雨にまでバレてしまうなんて情けない。光のことを特別な感情で見ていることが誰か悪意を持つ者に知られてしまえば光に危険が及びかねないのに。

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