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第3話 -4
どうやれば無表情を鍛えられるだろうか。悟志がそれを考えていると、時雨は手にしていたレジ袋からコーヒー牛乳を取り出し、ストローを差す。
「でもさ、光今狙ってる奴いるじゃん。あんな顔して強かだし、好きなら繋ぎ止めておかないと誰かに取られると思うけど」
「……別に、光とどうにかなりたいわけじゃない」
光は飽き性な上に惚れ症だ。これまで付き合って来たのは男女含めて数知れず。
別に、光に対して何かをしたいわけじゃない。伝える気もなければあれの性質だってわかっているから止めるつもりもない。
これまで何人と付き合うのを見て来たか。そして、別れた後一切連絡をとらなくなるあれを見て来たか。もし自分が付き合ってもと思ってしまうのも仕方のないこと。
悟志は光の走って行った出入り口をぼぅっと見つめる。そんな姿に、時雨はくつりと小さく笑った。
「そんな顔するなら、告白すればいいのに」
「どんな顔だ」
「欲しくて堪らないって顔。お前の家が原因? 俺は別に気にならないけど」
「他人がどう思うかは関係ない。弱みになるものは持てない、それだけだ」
もし何かがあった時、人質に攫われでもしていたら? 殺されるか、こちらの無条件降伏か。そのどちらかしか選べなくなるような関係なんて作るべきじゃない。
それに、恋人なんて作れば父が黙っていない。あれの性玩具として生かされている今は、何もできない。
昨日噛まれた肩が今更痛む。学校にいるときは忘れていたいのに、それを許してくれない。
肩を押さえ、思い出さないようにと別のことを考える。読んだ本のことでもいい、光でも、何なら市倉でもいい。
時雨を気にする余裕もない。俯き何かを考えなければと思考を巡らせる。それなのに、痛みは益々強くなる。
そんな悟志の肩に、時雨が触れた。
「怪我でもしてんの?」
「……何でもない」
「脂汗出てるし、嘘だってわかるから。……ほんっとに、顔は好みなんだよな」
表情を窺うために顔を覗き込んだ時雨は、そんなことを呟きながら悟志の顎を掬い上げる。
何の話だ。そう問おうとした悟志に、時雨は有無を言わせず覆い被さった。
唇が塞がれる。痛みから肩を力強く握っていた手が撫でられ、至近距離で重なる視線に力が抜けていった。
触れるだけなら事故だと思えた。だが、時雨は離れることなく唇を食み、耳の下から指を這わせる。
「ん、んぅ」
拒否をしようにも、父によって開発され尽くした身体はまるでパブロフの犬の如く力が入らなくなる。舌が触れ合いざらついた感触に肌が粟立ち、まだ碌に喋ったこともない男相手に蹂躙されることを良しとしてしまった。
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