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第3話 -5
条件反射に身体が弛緩していくそれを、自分で止めることができない。抵抗する術もなく、何故時雨がこんなことをするのかもわからず、ただ視線だけは鋭いままに睨みつけていた。
漸く離れた頃には、二人分の唾液が混じり合い唇の端から零れる。暫くは身体が動かない。フェンスに凭れかかり睨みつけるだけのそれに、時雨は舌を出し挑発した。
「組長の猫って聞いたけど、本当なんだ」
「……お前、カタギじゃないのか」
「俺はただの一般人。俺の兄貴が九条組の下っ端で、九条のことは時々聞いてたから気になって」
唾液で濡れた唇を舐め、まだ動けない悟志の顎を指で撫でる。瞳を細め笑うそれを振り払えず、乱れた呼吸を整えた。
ただの同級生かと思いきや、関係者だったなんて。若い衆の兄弟なら市倉も気が付かないはずだ。何が目的なのかを探りたいが、そろそろ光も戻って来てしまう。
直球で聞くしかない。呂律が回りきらないが、それを気にする余裕もなく悟志は問うた。
「何が目的だ、その兄が殺されでもしたか」
「やだな、復讐でキスなんてするわけないだろ。光が好きってことは付き合ってる奴もいないんだろ? それに組長の猫ってことは男が駄目なわけでもないだろうし、顔が好みだから遊べないかと思って」
「お前は俺の好みじゃない」
「知ってる。でも、父親相手に腰振れるんなら、ただの同級生だって相手するのは変わらないだろ?」
顎を撫でていた指は身体を這い、下腹部をつうと撫で上げる。掌で包むようにして揉み込めば、それだけでも吐息は零れ出てしまう。
艶やかな声は自分では止められない。帰るまでは忘れていたい父の顔が脳裏に浮かんで消えなくなる。嫌だと口に出すことすらできず、辛うじて持ち上がった腕で時雨の肩を縋るように掴んだ。
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