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第3話 -9

 甘い痺れを持ち始めた身体では拒否もできない。  そもそも、拒否をしようなんてうわべだけでしか思っていないのかもしれない。蓋を閉めた便器に座った時雨の膝の上に座らせられ、何度もくちづけながらそう考えてしまう。  絶対に汚いのに、そんなこと気にしないとキスを続ける時雨に身体を預け、好きにさせる。身体が動かなくなるのはもうわかりきっている。触れられるだけで条件反射でマグロ状態になってしまうそれで逃げられるはずもないし、授業中では話し声程度で誰か来るわけがない。それならもう、終わるまで好きにさせた方が暴力だって受けずに済む。  相手が誰だってセックスするなら皆同じだ。父だろうと時雨だろうと関係ない。それが脅迫だろうと同じこと。大人しく身体を差し出せば害を与えないというのなら、相手が満足するまで触れさせるだけ。その接触が手を繋ぐだけだろうが深くまで繋がることだろうが、大した違いなんてない。キスだって同じこと。  だから、今キスをやめないのは自分の意思じゃない。 「九条、ちょっと重い、九条」 「ん、ん……」  頬を包むように撫でられ、喉が鳴る。もう片方の手では絶えず二人分の欲望を重ね合わせ刺激を繰り返しているものの、時雨はまだ余裕そうだ。何もできなくなっている悟志は唇を閉じる余裕もなく、じっと視線を合わせるだけ。  全体重をかけていた悟志をそっと押し戻すように腕で支え、時雨はふっと笑った。 「まだ前戯レベルなのに、もう頭真っ白?」 「……しないのか?」 「するけど。俺のこと睨んでたのに嫌だとかもう考えられないんだ?」 「しないと、お前何するかわからないだろ」 「黙らせるためなら言う通りにするんじゃなくても殴ったりそれこそ脅迫したり手段はいくらでもあったろ。馬鹿正直に俺の言う通りに此処に来てちんこしゃぶって、キスで頭いっぱいにしてんのはお前の勝手じゃん」 「……騙したのか」 「口塞ぐだけならキス以外にも幾らでも方法はあったのに、毎日セックスばっかしてるから俺の言葉に簡単に乗っちゃうんだよ。で、もうキスはしない?」  ぐり、と先端の窪みを指先で押される。思わず腰が跳ね、時雨の肩に顔を埋めた。止められない刺激に、悟志は零れる吐息もそのままに時雨の足に押し付けるようにしながら腰を揺らす。 「ぁ、あ、んっ……」 「いつもそうして父親相手に腰振ってんの?」 「うる、さい、馬鹿……っ」  悪態もつくだけで、一度身体のスイッチが入ってしまうと止まらない。身体はいつも動かなくなるだけなのに、揺れる腰が止まらない。  自分でも自分の身体がわからない。悟志の縋るような甘い嬌声に、時雨は耳を食み、囁いた。 「サッカー部の部室行こう。此処じゃこれ以上できない」  初めに、今日はしないと言ったのに。一度イかせるだけだったはずだ。そして、それはもう終わっている。  それでも、毎日のように快楽に堕とされ続けた身体は目の前にある自分以外の欲望に我慢ができない。  悟志は、顔を合わせないままにこくりと小さく頷いた。

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